未婚、子なしの30代女子の現実を綴った『負け犬の遠吠え』や『ユーミンの罪』など、自由を謳歌する一方、かえって生き難くもなった同時代人の生の声を的確にすくい取ってきた酒井氏。昨年は『婦人公論』のバックナンバー約1400冊を読み解き、明治から昭和の女性の意識の変遷を追った『百年の女』を上梓。その延長上に本書もあるという。
「昭和41年生まれの私は、昭和ヒト桁世代の父と戦後教育を受けた母、明治生まれの祖母と兄の5人家族で育ち、家族観は世代ごとに違って当たり前でした。
特に母は他に好きな人ができて家を出たこともあるくらい奔放な人で、なのに帰ってきた理由が、〈おばあちゃんが可哀想になった〉なんですよ。子供のためではなくて。死ぬまで女だったあの母にすら〈姑は看取らねば〉という感覚が残っていることに私は仰天したものですが、どんな家族も時代の影響を受けてはいます。特に私は子供がいないせいか、今時の親子関係に驚かされることが多くて」
例えば昨年1月、草津白根山噴火のニュースに釘付けだった山好きな酒井氏は、ゴンドラの中で救助を待つ男性客の一言に思わず耳を疑う。〈電話の相手は、自分の父親であり、今どのような状況かを切羽詰まった様子で話した後、彼は、「パパ、愛してるよ!」と言ったのです〉(「パパ、愛してる」)。
だがそんな時、違和感を違和感のままにしないのが、時代の観察者・酒井順子だ。さっそく周囲のママたちに意見を聞くと、昨今は大学の部活ですら親がかりで、引退式で〈僕が感謝をしたい人は……、お母さんです〉と言って〈熱いハグ〉を交わす親子も珍しくないとか。そして、〈友達化〉した父と息子や〈ママっ子男子〉の存在に一々驚く方がおかしいのだと、腹を立てる前に自らを省みるのである。