「その驚きやムカツキで、口に糊しているわけですね(笑い)。当の母親たちも公の場であり得ないと言う人がいる一方、〈ハグくらい、当然〉と言う人もいて、ママっ子もパパっ子も今や当たり前。私が学生の頃は親が試合の応援に来ること自体ありえなかったけれど、それも時代の変化であり、自分にも子供がいたら同じことをしていたのでしょう(笑い)」
家族内の上下関係は消えつつある、今。むしろ〈これが本来の人の道なのかも〉と酒井氏は書く。
〈私は、親に対して何ら、これといった愛情表現をしてきませんでした〉〈母親はほとんど突然死くらいの状態だったのですが〉〈耳元で勇気をふりしぼって小声で囁いたのは、「ありがとね」の一言〉〈嗚呼、親に「愛してるよ!」と叫ぶことができる人、親をハグすることができる人に幸いあれ〉と。
◆他人同士だから優しくなれる
「うちは今風の仲良し家族では全くなかったし、もし生まれ変わったら京塚昌子さんみたいな肉じゃが系の母親のいる家に生まれたいと思います(笑い)。
でも父や母のことを嫌いではなかったし、我が家だけが特殊かといったら、どんな家庭も特殊と言えば特殊なんですよね。にもかかわらず人は普通の家族を求め、手に入らない場合は飲み屋のママや、甥や姪といった代替家族に愛情が向かう。たぶんそれはみんなが持っているものほど欲しくなるから。でも実際は受験や運転免許や結婚など、〈みんながしている〉ことほど全然当たり前にできることではないというのが、私の実感なんです」