自工会の公式ホームページで公開されている同日の会見録から豊田会長の発言を整理してみると、
(1)雇用を継続し、また拡大する企業に対して、政府はインセンティブ(支援や補助)を行うべきだ
(2)これ以上、国内生産が減少すれば、企業として国内の雇用を維持することができなくなる。
との2点を述べているだけで、「終身雇用が難しい」とか「終身雇用制度を見直す」などという発言をしているわけではありません。経団連会長の発言とは異なり、豊田会長の発言の背景には、自動車市場の国内での縮小やアメリカとの貿易摩擦の問題、さらには10月に予定されている消費税増税の反動減への懸念があるのです。
昨年11月には、自動車産業が集積する愛知県をはじめとする10県の知事と、浜松市、名古屋市の両市長の連名で、2019年度税制改正で自動車の購入や保有にかかる税金の軽減を求める緊急声明を政府与党に提出しました。これは、かねてより自工会が主張してきた「自動車市場の縮小が続けば、国内生産の減少が止まらなくなり、結果的に雇用への影響が避けられない」とする考えと同じです。
こうした官民一体の動きによって、自動車関連税の見直しが図られ、政府は総額1300億円規模の恒久減税を決定しました。しかし、一方で2020年以降に税制体系そのものを抜本的に見直し、走行距離や重量などに応じた課税に変更を検討すると発表しています。
一連の動きに対して、特定産業への優遇策だという批判もありますが、現在の日本の産業構造を見てみると、国内の雇用吸収力や海外への輸出額など、どれを見ても自動車産業が抜きん出ていることは間違いありません。豊田会長は5月13日の会見の中で、「政府は自動車産業を納税産業ではなく、戦略産業としての視点を持ってもらいたい」とも発言しています。