客席の高いところに2台の4Kカメラを固定し、選手のジャンプを計測する(画像提供/Qoncept)
アイスコープは2台の4Kカメラをリンク全体が映せるような位置に固定でつけ、選手がジャンプを踏み切った場所、一番高く飛んだ場所、着氷した場所を記録し、解析。それを中継用カメラで撮った映像と組み合わせて、飛距離、高さ、着氷速度、ジャンプの軌跡を表示する。
「世界フィギュアでは計測対象のジャンプを撮影する際には中継用の複数台のカメラのうち半数をアイスコープ専用にしました。選手の動きをカメラで追ってしまうと踏み切る位置や着氷する位置がずれてしまい、映像中の軌跡と実際の軌跡が一致しないからです。そのため、選手がジャンプを飛ぶ直前でカメラの動きを止めてもらいました。それでもジャンプのタイミングの予測は難しく前半はどうしても動いてしまうので、最終的にはカメラがどれだけ動いたかを自動で計測し、誤差を調整することで正しい軌跡を表示しました」
今回の世界フィギュアは国際映像として世界中で放送されたため、ISU(国際スケート連盟)もアイスコープに興味を持ったという。
「ISUの関係者からは面白いから何かほかの大会でも使ってみたい、ジャッジで使えるレベルなのかといった相談を現場のスタッフが受けたと聞いています。ただ、現状のシステムはジャンプの位置によっては3cm程度の誤差が発生するため、ジャッジで使うとなると、もっとリンクに寄った映像を撮影して解像度を上げ、解析するデータの精度を高めなければ難しいとスタッフには説明しました」
やはりファンが気になるのは、採点にかかわってくることだ。ジャンプの回転が足りているか足りていないのかが明確化できるのか、GOE(加点)にかかわってくる離氷、着氷の美しさをアイスコープで測ることはできるのだろうか。
「映像さえ撮れれば、離氷、着氷時の角度の計測やそこから正確な回転数を計算することは可能だと思います。ただ、元選手や長くフィギュアスケートに携わっているスタッフからは回転を計測するとなると、どのタイミングを離氷、着氷とみなすかが難しいと聞いているため、直接、採点にかかわるものに関してはさらに精度を上げ、情報を集めていく必要がありそうです」
さらに採点にかかわってくると、設置の大変さもあるという。
「テニスのホークアイは、画像解析用に高性能のカメラを10台ほど会場に設置して、細かく見ているそうです。そうなると毎回、設置するのも大変で、一回、一回の運用にかなりの費用がかかることになります。大規模なものになると大きな大会で、運営側がしっかりと予算をつけることが必要になってくるのです。もちろん今後、精度をあげていきますが、採点にかかわるものとなると、現状ではまだといった状況ですね」
とはいえ、ジャンプの高さや飛距離を数値化できる技術が採用されただけでもフィギュアスケートにとっては大きい。ジャンプを可視化することによって、ファンも選手のすごさがわかり、選手自らもモチベーションが上がる可能性があるからだ。
昨年、全日本で優勝した女子の坂本花織選手(19才)は選手が採点を待つキスアンドクライで自らのダブルアクセルの飛距離、高さ、着氷速度を見て、「う~わ! 怖い! 怖い! うわ! 面白いコレ!」と驚きの声をあげていた。
「坂本選手はいい反応してくれていましたね。今回は始まったばかりなので、テレビの映像だけでは伝わらないところをデータで見せて、実はこんなにすごいというのがより具体的に伝わればいいと思います。野球でいえば、ピッチャーの球の速度は直接成績にかかわるわけではないけれど、選手のすごさを示す指標になるのと同じ。
来シーズン以降もアイスコープは続ける予定ですが、次は各選手の得意なジャンプを解析するかもしれませんし、昨シーズンと比べるために次もアクセル系ジャンプになるかもしれません。世界フィギュアでも“ネイサン・チェン選手(20才)の4回転ルッツを計測してほしかった”という声もありましたし。もし選手や協会から、“こういうのを測って欲しい、こんなのが見たい”というのがあれば、ぜひ現場の意見も取り入れたいと思います」
アクセルジャンプといえば、やはり羽生選手。現在、4回転アクセルの成功に意欲を見せているが、成功したあかつきには、どんな数値が出るのか、今から楽しみだ。