国内

JRの“暴君”による恐るべきオルグ(組織化)の技術

評論家の呉智英氏

「労働運動家」ときいても、今では何をするのかピンとこない時代だ。だが、国鉄がJR各社へと分割・民営化された30年前の時代には、大きな影響力どころか実質的な権力を握っていた。革マル派創設時の副議長で、JR東日本労働組合の事実上トップだった松崎明氏をめぐるノンフィクション『暴君』(牧久・著)から評論家の呉智英氏が注目した、恐るべきオルグ(組織化)技術の要についてお届けする。

 * * *
 牧久『暴君』が面白い。新聞広告を見てすぐ本屋に行ったが売り切れ。次の本屋も、その次の本屋も売り切れ。四軒目でやっと入手した。「新左翼・松崎明に支配されたJR秘史」とサブタイトルにある。同じ著者が二年前に書いた『昭和解体』(サブタイトル「国鉄分割・民営化30年目の真実」)の続篇である。『暴君』を単独で読んでも十分面白い。

 旧国鉄は、鉄道院・鉄道省以来の巨大官営企業だったが、積年の不正と労組の専横が重なり、分割民営化という大鉈が振われて一九八七年にJR各社となった。労組も、各政党系の他に、過激派の一つ革共同革マル派の力が強く、民営化後も大きな影響力を持った。その指導者松崎明をめぐるノンフィクションである。松崎は、当事者でない私からすれば、アッパレな英雄にさえ見える。

 興味深い箇所はいくつもあるが、私は、松崎の履歴と活動方法、特にオルグ(組織化)の技術に注目した。

 松崎が少なくとも一時期は所属していた革マル派は、理論の純粋性が特徴で、その分、秘教的で排他的な傾向が見られた。最高指導者黒田寛一も理論家タイプだった。ところが、松崎はこれと正反対のタイプだった。引用された左翼運動家の回顧録にこうある。

「松崎さんは僕が初めて出会うプロレタリア共産主義者である」「松崎さんは労働運動とはこういうものだよ、の喩えとして、職場で酒を飲みながら、猥談をする話をした」

関連キーワード

関連記事

トピックス

俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
AIの技術で遭遇リスクを可視化する「クマ遭遇AI予測マップ」
AIを活用し遭遇リスクを可視化した「クマ遭遇AI予測マップ」から見えてくるもの 遭遇確率が高いのは「山と川に挟まれた住宅周辺」、“過疎化”も重要なキーワードに
週刊ポスト
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト