物語は後半、母が2人でもう一度見たいと切望する〈はんぶんの花火〉を巡って急展開し、〈あなたはきっと忘れるわ〉〈忘れないよ〉と言い合う親子の、ささやかすぎる祈りが涙を誘う。

「新海監督や細田守監督も、僕の周りのクリエーターの多くは記憶に取り憑かれ、忘れたり忘れられたりすることに傷つく人が多い。でも実際は忘れないと言う人ほど忘れるし、忘れられて淋しがる人が相手のことをどれだけ考えてきたのか、僕は疑問に思うんです。僕の場合、祖母と最後に過ごした濃厚な時間のおかげで後悔はないです。人間は忘れる動物だという事実を前にして、読者が悲しいとか淋しいだけではない何かを見出してくれたら、作者としては本望です」

 花は散るからこそ美しく、花火も記憶も、きっとそうなのだ。

【プロフィール】かわむら・げんき/1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『怒り』『何者』『君の名は。』『未来のミライ』等、数々のヒット映画を製作。昨年は佐藤雅彦氏らと『どちらを』を初監督、カンヌ国際映画祭短編コンペティション部門に選出。2012年の初小説『世界から猫が消えたなら』は世界各国で出版され200万部を突破。他に小説『億男』『四月になれば彼女は』、対話集『仕事。』『理系に学ぶ。』『ブレスト』等。180cm、73kg、A型。

構成■橋本紀子 撮影■国府田利光

※週刊ポスト2019年6月21日号

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