ライフ

【著者に訊け】芥川賞作家・柴崎友香氏 長編『待ち遠しい』

柴崎友香氏が『待ち遠しい』について語る

【著者に訊け】柴崎友香氏/『待ち遠しい』/1600円+税/毎日新聞出版

 美大のテキスタイル科を卒業し、今は地元・大阪で事務職に就く、〈北川春子〉39歳は、〈ライトグレー〉。夫の死後、母屋に越してきた大家さんの長女、〈青木ゆかり〉63歳は、〈出汁巻き卵みたいな黄色〉。裏手の一軒家でゆかりの甥と新婚生活を営む、〈遠藤沙希〉25歳は、〈淡いピンク〉。

 年齢も境遇も違う3人が、たまたまその日は某〈低価格カジュアル衣料品店〉で買った同じカーディガンを羽織り、色や着こなし次第で〈全然違う服〉に見える出会いのシーンが秀逸だ。

 芥川賞作家・柴崎友香氏の最新作『待ち遠しい』は、庭続きの離れに住む春子と、世話好きなゆかり、いかにも現代っ子な沙希のご近所関係を描く。物理的な近さはやがて心の距離をも縮め、彼女たちはよく夕食を囲む仲になるが、互いの事情までは理解しあえずにいた。やはり人と人はどこまで行っても、近くて遠い?

 本作は毎日新聞日曜版に連載され、2000年のデビュー作『きょうのできごと』や芥川賞受賞作『春の庭』とも、作風はかなり異なる。

「やはり新聞小説は幅広い読者に読まれるものですし、特に最近は『人のことって聞いてみないとわからないなあ』とか、『自分には当たり前のことでも環境が違うと全然伝わらないんだ』とか、微妙なニュアンスほど言葉にする必要を個人的にも感じることが多くて。

 例えば家族という単語を使って誰かと話していても、お互いイメージする家族の定義が違うままだったり、就職とか仕事という言葉も世代間で結構認識にギャップがあると思うんですね。それでも人間はその曖昧な言葉でわかり合うしかなく、同じことを喋っているつもりでも生じてしまうズレをきちんと言葉にして伝える試みを、今回は小説の形でやってみたかったんです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平バースデー》真美子さんの“第一子につきっきり”生活を勇気づけている「強力な味方」、夫妻が迎える「家族の特別な儀式」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
東京・新宿のネオン街
《「歌舞伎町弁護士」が見た性風俗店「本番トラブル」の実態》デリヘル嬢はマネジャーに電話をかけ、「むりやり本番をさせられた」と喚めき散らした
NEWSポストセブン
横浜地裁(時事通信フォト)
《アイスピックで目ぐりぐりやったあと…》多摩川スーツケース殺人初公判 被告の女が母親に送っていた“被害者への憎しみLINE” 裁判で説明された「殺人一家」の動機とは
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《女優・遠野なぎこのマンションで遺体発見》近隣住民は「強烈な消毒液の匂いが漂ってきた」「ポストが郵便物でパンパンで」…関係者は「本人と連絡が取れていない」
NEWSポストセブン
記者が発行した卒業証明書と田久保市長(右/時事通信)
《偽造or本物で議論噴出》“黄ばんだ紙”に3つの朱肉…田久保真紀・伊東市長 が見せていた“卒業証書らしき書類”のナゾ
NEWSポストセブン
JESEA主席研究員兼最高技術責任者で中国人研究者の郭広猛博士
【MEGA地震予測・異常変動全国MAP】「箱根で見られた“急激に隆起”の兆候」「根室半島から釧路を含む広範囲で大きく沈降」…5つの警戒ゾーン
週刊ポスト
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト