〈大家さんのお葬式のときにいちばん泣いていた人〉

 それが、春子のゆかりに対する最初の印象だった。享年90だった大家さんには、東京に嫁ぎ2人の子供を育てた長女と、大阪に住む次女と三女がいる。中でも人懐こい長女ゆかりは、引っ越しの挨拶に来るなり、お喋りが止まらない。1階に水回り、2階に居間兼台所と洋室がある築50年、室内リフォーム済みのこの物件を、春子は高校の友人〈直美〉の新居を訪ねた際、近所で見つけた。1人暮らし10年目を迎えた今も、住み心地は快適だ。

 中庭越しに母屋を望み、掃除機の音が聞こえてくる距離感は、大家がゆかりに変わって、より密になった。春子は直美に〈基本的に、いい人っぽい〉とゆかりの印象を語り、総菜や果物をお裾分けされる関係に戸惑いつつ、悪い気はしない。

「私も上京当初は商店街や近所の人に声をかけられて凄く安心したし、海外にもその手のおばちゃんが必ずいるんですよ。大阪は若干確率が高いだけで(笑い)。

 ただし春子自身は将来自分が飴ちゃんを配ったりはできない気がしていて、趣味の〈消しゴムはんこ〉や刺繍に勤しむ1人の時間を大事にしたいタイプ。就職氷河期世代の彼女がどんな職種でもこつこつ働ければいいと思う気持ちもわかるし、そんな彼女が物理的な距離や家の作りに心理状態も影響されるところが、私は面白いなあと思うんです」

 ある時、春子はゆかりの夕飯に招かれ、裏手に住む甥〈拓矢〉の妻・沙希を紹介される。一見愛らしい彼女は春子と会うなり、〈一人暮らしですか?〉〈変わってますね〉と言ってのけ、〈手巻き寿司? なんか、子供の誕生日会みたい〉と遠慮がない。拓矢は沙希の「地元の先輩の仲間」らしく、その先輩という感覚自体、部活経験のあまりない春子には馴染みがなかったが、〈おんなじ服、着てるやんね〉と沙希に言われると妙な親近感も湧いてくるのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
犯人の顔はなぜ危険人物に見えるのか(写真提供/イメージマート)
元刑事が語る“被疑者の顔” 「殺人事件を起こした犯人は”独特の目“をしているからすぐにわかる」その顔つきが変わる瞬間
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン