「自由に振る舞っている人を見ると腹が立つのは、普段がまんして生きている人なんです」と語るジェーン・スーさん

スー:なんとなくモヤモヤしながらも「そういうもの」とのみ込んできた事柄が、最近になって続々と顕在化している気がするんです。たとえば、セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を告白し、共有するためのハッシュタグ#Me Tooや、女子受験者を一律減点していた医学部入試問題。職場で女性がパンプスやヒールを履くことを強制する風習をやめようという#Ku Tooも話題になっていますね。

中野:確かに女はこれまでも、今もずっと「モヤって」います。#Ku Tooのようなムーブメントもごく最近のもののようではありますが、広い視座で見ればここ150年ぐらいずっと続いてきた流れでもあるんです。

スー:それは女性の参政権獲得とかの動きも含めて?

中野:そうですね。たとえば昔はコルセットでウエストをきつく締め上げたせいで、骨が変形したり、内臓に変調を来したりして、亡くなる女性もいたほどです。今ちょうど東京で、『ウィーン・モダン展 クリムト、シーレ 世紀末の道』が開催中ですけど、クリムトのミューズだったエミーリエという女性が、そういう風潮に異を唱え、コルセットなしで着られる婦人服をデザインして「改良服」として売り出したんですね。

スー:アバンギャルドな感じの服ですよね。

中野:ウエストを絞らず、ゆったりと着られる、モードっぽい服ですね。先進的な実業家でもあったエミーリエはこれをウィーンで販売しますが、進歩的な女性たちにはそこそこ売れたものの、広く流行になる前に終わってしまった。その流れを継承したのがココ・シャネルといってよいでしょう。彼女がデザインした女性のための活動しやすいスーツは、働く女性たちを後押しした。今でこそ天下のシャネルですが、発表当時はダサいとか散々言われたりもしたんですよ。服に関してはそういった流れがあったのですが、なぜか靴に関しては進歩が遅いんですよね。

スー:ヒールやパンプスが女の礼儀正しさ、みたいなムードはありますよね。

中野:でも本当は男性服こそドレスコードって実はすごく細かいし、厳しいんです。それをほとんどの日本人男性は知らないのでは? そして男同士の間では厳しく指摘し合わないのに、女性にだけあれこれうるさく“常識”を押し付けてくる傾向があるように見えるのですが、それはどうなのかなと思います。

スー:一方で、「じゃあ今日、会った女性の中で何人がヒールを履いていた?」と聞かれた時に正解を答えられる男性なんてほぼいないと思いますけどね(笑い)。

中野:そうでしょうね。記憶のあるなし以前に、女の足元をしっかり見ている人は少ないでしょう。でも見ていたらセクハラと思われてしまうかも。

スー:ただ、#Ku Too自体は男女間の対立を煽っているわけでは決してないんですよね。あれは「男が女に無理やりハイヒールを履かせてきたから怒っている」という話ではないでしょう。そうではなくて「ノーとは言いづらい弱者が強制されている構造そのものがおかしいよね?」という問題提起なんです。それなのに、ネットでも実社会でもそのことが伝わっていない印象を受けます。社会の仕組みに対してモヤっているのに。

中野:「女は感情的だ」とよくいわれますけど、男性も引けを取らず充分に感情的です。怒りをコントロールできない男性なんて、これまでに目が腐るほど見てきたでしょう。あれは女にそもそも感情があると思っていない男性目線からの捉え方なのでは? 女とは、黙って男の面倒を見てくれる存在であるという前提が男性側にあるのでは。男をサポートしてくれる完璧なアシスタントのような存在であるべきなのに感情が見えると、「女は感情的だね」と言いたくなるのではないでしょうか。女は「システム」でも「モノ」でもないのですが。

スー:女をモノとして扱うか…。

中野:そう。男がまさに女をモノとして見ていることがよくわかる実験があるんです。ビキニ姿の女性と、露出の少ない普通の服装の女性の写真を両方見せる場合、ビキニ姿の女性を見た時の男性の脳では思いやりや共感、良心などを司る脳の領域が働かない。つまり、ビキニを着ている女性を男性の脳は「モノ」として判断しているということになります。残念なことに感じるかもしれませんが、性的な対象としての女性をモノとして捉えてしまう脳の仕組みがあるんです。

スー:なるほど。南海キャンディーズの山里亮太さん(42才)と女優の蒼井優さん(33才)の結婚報道を受けて、「頑張ってきた山ちゃんへのご褒美だ!」みたいなお祝いの声を見かけましたけど、それじゃあまるで“トロフィーワイフ”(年収や地位の高い男性が手に入れる、人に自慢できるような女性)を手にした男性にかける言葉みたいですよね。

 記者会見を見て、私はお互いへの理解がベースにあるふたりなんだろうなという印象を受けました。

中野:報道陣の問いかけに対して「ぼくにしか見えていない彼女の顔がある」としっかりお答えになっていましたよね。魔性とかファム・ファタール(運命の女)って、世間や男側が勝手にそう思い込んで名付けているだけなんでしょうね。そういう意味では美人というのは損でもあるのかもしれません。

◇美も若さも減る一方、美人の武器はもろすぎる

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