――明仁天皇と美智子さまは、それまでの皇室の何を変え、何をもたらしたのでしょうか?
永福氏:本当の意味での「皇室の近代化」が挙げられるのではないでしょうか。これもお二人で成し遂げられたことだと思います。
「自分たちの子どもを自分たちの手で育てる」という、一般人には当たり前のことが、明仁皇太子殿下・美智子妃殿下の代になってやっと叶えられた。それは先に皇室改革を進めていた父の昭和天皇でも成しえなかったことです。
両殿下は「乳人(めのと)制度」「傅育官(ふいくかん)制度」を廃止され、開かれた皇室を実現されましたが、実際には相当な抵抗があったと思います。おそらく明仁殿下の持ち前の科学的な論理で「なぜ旧制度を廃止しなければならないのか」を説き、「肝の据わった気の強さ」で改革を断行されたのだと思いますが、それには何よりもパートナーの理解と協力が不可欠だったでしょう。その意味で、明仁天皇と美智子さまは本当にお互いにとって良き伴侶だったんだと思います。
――明仁天皇と美智子さまは、国民にどんな影響を与えたのでしょうか?
永福氏:自然災害が多発した平成時代。お二人の後半生は大半が国内被災地への慰問と、戦争被害者への慰霊の旅に費やされていました。
被災地の避難所で膝を折り被災者を励ますお二人の姿に、保守層の一部は眉をひそめたようですが、多くの国民は感動を持って受け止めました。避難所の体育館にお二人が現れると場内がワッと沸き立つような雰囲気に包まれるのをテレビで見て、まるで魔法のようだと思ったものです。数千人をいっぺんに癒すことができる。もう最強最高のヒーラーですよね。
明仁天皇・美智子皇后両陛下は、天皇や皇室をかつてないほど身近に感じさせましたし、国際親善の舞台で果たされた役割もとても大きかった。天皇制の是非はともかく、お二人の存在が私たち国民や世界の人々に「天皇」の存在を大きく再認識させたことは間違いありません。
それから、明仁天皇は即位後「朝見の儀」で「憲法を守る」という当たり前のことを仰り、国民に宣言した通りにそれを全うされました。作品中でも触れましたが、日本国憲法の基本原則が「国民主権」と「基本的人権の尊重」、「平和主義」だとすると、憲法を守るということは「主権在民を侵さず、人権を守り、戦争をしない」ということですよね。このシンプルだけど非常に強度があるロジックを、戦争の悲惨さを知る陛下は「象徴天皇」の振る舞いとしてずっと意識されていたように思えます。
陛下の憲法に対する向き合いや、そもそも「開かれた皇室」自体に懐疑的な人たちは昔からいますが、そのお姿が私たちに与えた影響は少なからずあったんじゃないでしょうか。
『明仁天皇物語』で、まずはコミック作品としてそうした現在の上皇・上皇后両陛下の魅力を、読者にきちんと伝えることができていれば本望です。
『明仁天皇物語』(小学館)
原作・永福一成 作画・古屋兎丸 監修・志波秀宇
全ての国民に愛され、また、国民とともに歩まれてきた明仁上皇陛下と美智子上皇后陛下。お二人の苦難の旅路を描いた本格ドキュメントコミック。
※『明仁天皇物語』の原作者・永福一成氏と作画・古屋兎丸氏による制作裏話トークイベントが開催されます。抽選でサイン入り色紙プレゼントがあるほか、サイン入りコミックスも先着20名に販売。
日時:2019年10月15日(火)18:00会場、19:00開演
会場:「ロフトプラスワン」東京都新宿区歌舞伎町1-14-7 林ビルB2
チケット:前売1800円、当日2300円
詳細・チケット購入は https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/126733