女ウケ、男ウケについて語るジェーン・スーさん
スー:今『美ST』(光文社)っていうビューティー月刊誌でコラム連載をやっているんだけど、私の知る限りでは「男のためにきれいを目指してます!」って人はほぼいないね。みんな自分のためにやってる。自己実現としての美。自分との戦いというか、もう美容オタクの域で、最高だよ。一昔前って「美魔女? どうせ夫が金持ちなんでしょ?」みたいな風潮があったし私もそう思ってたけど、自分で稼いでる女性がどんどん増えてるみたい。『美ST』は強烈な女子校だよ。究極の女ウケ。
中野:芸能界は象徴的かもしれない。女性に人気がある女性タレントさんもいれば、男性に人気がある女性タレントさんもいる。でも数十年前の芸能界なら、この図で言うところのウケ度と係数を掛けて得られる最終的な報酬が大きかったから男ウケだけでもタレントは全然コストを回収できていた。ただ、今の時代は支持する人の母集団そのものがどんどん減ってきているからね。人口が多いときは男ウケだけを狙っても、面積SBが十分に大きいのでビジネスとして成り立つ。
実は昭和の頃は、メディアの数が限定的であったので、人口が分散されずに、ごく少数のタレントさんを多くの人が支持する、というマスの構造が作りやすかったんだよね。平成から令和にかけての昨今は、メディアの数も種類も増えて、もはや1億総タレントと言ってもいいような状況。すると、それを支える母集団のサイズは、どうしても小さくならざるを得ないでしょう。すると、人口の半分しかいない男ウケだけを狙うと、これはビジネスとしては難しくなるよね。一発あてるだけならともかく、長期戦略は立てづらい。
スー:人口の推移が増加傾向にあったりとかメディアがひとつしかなかった時代には、この戦略でも勝てたんだ。
中野:グラフで言うと、この値kが違うんだね。関数のベースは変わらない。だけど、人口が減るとどんどんkの値が減少していく。
スー:人口の減少に伴って、芸能人一人あたりに割り当てられる国民の数が減るってことだよね。ってことは、国民の数が変わらなくても芸能人の数が増えれば同じことが起きるとも言えるのかな。つまり活躍する女性の数が爆発的に増えれば、必然的に多様性が出てくるってこと?
中野:もちろん、そうなるよね。