女ウケ狙うほうがコスパいいと言う中野信子さん

スー:他者からどう見られているか、俯瞰の目を持つことは大切。それは否定しません。でも、社会の目をそのまま自分の目にしちゃうのは、すごく危険。「どうせ私なんてブスだから」となるのは、「美人は価値が高くブスは価値が低い」という社会のものさしを自分のものさしにしちゃってるからなんだよね。

中野:そもそもこの世が真っ暗闇だったり、人間に視覚がなかったりしたら、「美人になりたい」なんて望みを誰も抱かないですよ(笑)。今の社会でなぜ美人に憧れる女性がこんなに多いかというと、「美人になれば自分が社会から受ける恩恵を最大化できそうだから」であることは間違いでないでしょう。そこは私たち人類はみんな社会的生物だから、ある程度はもうしょうがない。

 ただ、実際に美人になれても思っているほどの得は取れないというだけで。だからある意味では、美人願望はおまじないやお札に似ている気がするよね。「こっちから悪い気が入ってきませんように」と願いながら、お札を貼るようにメイクする、みたいなところがある。それに多くの女性は、「絶世の美女」とまでは言わなくとも、「とりあえず感じのいい見た目にしてさえおけば文句は出ないだろう」といつも推し量りながら生きているのが実情でしょう。見た目でいろいろなことを言われちゃうのは、男性だって同じだと思う。「あの人、結構稼いでいるはずなのに吊るしのスーツ着てるよ」とか、やっぱり思われたくないわけでしょう。身だしなみという意味までくると、性別の差はあまり関係なくなるね。

スー:どんどん縮まってるよね。言葉の扱いとしてはどうかと思うけど、近頃よく聞く「女子力高い男子」ってそういうことじゃん。ところで、朝に顔を洗わない男性が意外に多いって知ってた?

中野:ええ?(笑)

スー:私がパーソナリティをやってるラジオ番組でスキンケア特集をやったら、「そもそも朝は顔、洗いません」ってメールが男性からいっぱいきたんですよ。「男って朝に顔洗わなくてもやっていける性別なんだ!?」と衝撃を受けた。今日も57歳の男性から「43年ぶりに朝、顔を洗うようになりました。肌の調子がよくなり、周りからの評判もすこぶるいいです」って報告がきた(笑)。「朝は顔を洗わない」って女性は少ないでしょう?そのあたりの差はまだまだある。

中野:それもまた現代人にかけられている「清潔であれ」という呪いかもしれないね。ただ、これからはどんどんシームレス(継ぎ目、垣根がない)になっていくでしょう。男性用化粧品なんかもすでにたくさん出ているし、アンケートを見ると、女性もかなりそれを好意的に捉えている。羽生結弦さんが『雪肌精』の広告をやるのなんて象徴的だと思うよね。

スー:じゃんじゃんやってほしいよ。「男たるもの顔や体なんかにかまうな」って社会規範は、これから命取りになると思う。年取ったらセルフネグレクト(自己放任)まっしぐらだよ。若い頃は「やるのはみっともない」と言われてたことが、シニアになったら「できなくてみっともない」になるなんて、ひどい話。男に生まれるか女に生まれるかで、入手できる情報に偏りが出過ぎるのも問題だよね。女性は下手したら小学生の頃からボディケアの情報に親しむわけだから、年季が違う。

撮影/藤岡雅樹

男は美人を「モノ」として見ている? レディースデーがある女の方が優遇されている? 女vs男の単純な図ではなく、女を取り巻く社会構造のモヤモヤをジェーン・スーさんと中野信子さんが解きほぐした対談集

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