それにしても原作の『老人喰い』というタイトルはエグイ。「貯金が2000万円もある高齢者から200万円をいただいて何が悪い」という理屈。リッチな高齢者を敵視することがエネルギーとなっている若い世代。老人たちを呪う社会の陰鬱。いくら説教して「詐欺は良くない」と正論を吐いても、空しく思えてくるほど。これまで紋切り型で捉えていた「振り込め詐欺」のさらに深層部分、犯罪を下支えしている末端の若者たちの姿が立ち上がってきます。
詐欺という手段で若い世代が「老人を食う」現実は、しかし視点を変えれば、安い金で若者を使い倒し非正規雇用という不安に閉じ込め、未来と夢とを食っている「若者喰い」社会ではないのか、という指摘も耳に入りました。そんなことをドラマを見ながら深く考えさせられてしまいます。
かつて「社会派ドラマ」といえば硬派で真面目、シリアスなタッチで描かれる作品が多かった。正義と悪が比較的はっきりと区分けされ、見る方も問題に関心のある人という傾向性がありました。
しかし昨今は変化の兆しが見えます。社会派ドラマに新たな胎動、新たな潮流が生まれつつある予感がします。例えば「働き方」をテーマにした『わたし定時で帰ります』、「ゲイカップル」を描いた『きのう何食べた?』は共に広く人気を博しました。テーマ性はしっかりとブレずに据えてあり、しかし見やすく物語に自然に入っていける。現実を捉え丁寧に細部が描かれているからこそ、説得力がありドラマを見た後に考えさせられる仕上がりで、視聴者に深く突き刺さっていきました。
ドラマは問題提起する。しかし善悪の判断や結論は簡単には決められないから視聴者一人一人が考えていく。
また、吉高由里子や向井理、西島秀俊、内野聖陽といったいわばメジャーな俳優たちが、がっぷりと「ブラック企業」「ゲイ」といったテーマに向き合ったことも、作品の間口を広げテーマについて考えたことのなかった視聴者をも引っ張り込む力となりました。
さて、今回の『スカム』で主役を張る杉野さんは『新しい王様』『ミストレス』など話題作へ出演が続いている新進気鋭の役者です。今どきの不安な若い世代が詐欺集団へと染まっていく生々しいプロセスをいかにリアルに描き出してくれるか。期待し注目しています。