高校のバスケ部の先輩・颯と同棲を始めて早1年。以前は颯の父親の勤務先の保養所だった湯沢のリゾート施設を訪れた逢衣たちは、颯の幼馴染〈琢磨〉と偶然再会し、恋人を紹介される。不遜な空気を漂わせるそのサングラスの女は目下売り出し中の女優、荘田彩夏で、この寂れたホテルにもお忍びでやってきたらしい。
ともかく4人で部屋飲みに興じたが、颯に嫌われたくなくて献身的に立ち働く逢衣に彩夏は〈別に酌なんてしなくたっていいんじゃない〉と嫌味なことを言い、第一印象は最悪だった。
が、海で遊んだ帰り道、4人は突然の雷雨に襲われ、颯たちが助けを呼びに行く間、逢衣は彼女と屋根のある広場に取り残されることに。幼い頃に祖父が雷に打たれて死に、母親に〈次はお前の番だよ〉と言われたと怯える彩夏を励まし、体を温め合ううち、逢衣は彼女の意外な繊細さを垣間見た思いがした。
2人は東京でも度々会うようになり、逢衣に何かとからむ常連客〈長津様〉を彩夏が〈西池袋のカナエ〉なる極道女に扮して撃退したり、互いの夢を語り合うなど、最高の女友達になれるはず、だった。ところがある日、彩夏の自宅で手料理をふるまわれた逢衣は唐突に唇を奪われ、〈逢衣を見るだけで身体の細胞が全部入れ替わってしまうくらい好き〉と告白される。彩夏が琢磨と別れ、逢衣が颯から結婚を切り出された矢先のことだ。
「逢衣が友達に裏切られた気持ちになるのもわかるし、彼女が結婚しそうになり告白を焦った彩夏の気持ちもわかる。結果的に振られた颯たちは気の毒ですが、誰が悪いわけでもないんです。
男女間の恋愛にはこの男性なら将来安泰だとか、知識や打算が入りこみがちだけれど、逢衣たちは何の計算もないまま相手を人間として純粋に好きになってしまう。その分、恋愛体験の全てが新鮮に思える喜びもあれば揺れもあるんです。
2人の仲を人に認めてほしいと思う彩夏と、別に周囲に波風を立てなくてもいいと思う逢衣の間でも、微妙に考え方が食い違うんです。そして関係が完全に固まらない状態で2人は仲を引き裂かれていくのですが、当初は彩夏を受け入れる形で付き合い始めた逢衣がどう変わっていくかを、後半では書いてみました」