◆性的でない部分にエロスを宿らせた

 思いがけない形で始まった新しい恋。颯と琢磨に事情を打ち明け、逢衣は颯との同棲生活を解消。彩夏の部屋で暮らし始め、彼女の紹介で出版社の契約社員の職も得た。彩夏も事務所からタワーマンションの最上階をあてがわれるほど女優として躍進しはじめた矢先、2人に大きなトラブルがふりかかる。

 2人の交際を知ることとなった彩夏の事務所は別れを迫り、逢衣は泣く泣く条件を呑む。別れるぐらいなら女優をやめると言って泣きじゃくる彩夏の〈小さいけど深い、一生消えない傷をつけてほしい〉という別れ際の望みにも、結局応じないままに。

「彩夏に女優として成功してほしいという夢を優先した結果、結局は7年も彼女と会えなかった後悔が逢衣を強くしていきます。特にこの2人の場合は、肉体関係の有無というより、将来を誓うことで、友達の範疇から出ようとしたのだと思います。世間からどう思われようと、彩夏と一緒に生きるという欲を最優先するためにも、逢衣は自分を鍛え、強くなる必要があったんです」

〈逢衣はずぶ濡れのセーターを着て生まれてきた人間の気持ちが分かんないんだよ〉という彩夏の台詞や、互いの体の小さなくぼみや〈白斑〉を慈しみあう細やかな性描写など、綿矢氏らしい表現の数々も見物だ。

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