あまりにボディシェルが頑丈なので、どれほどすごい補強をしたのかエンジニアに聞いてみた。ところが、補強のポイントはそのイメージとは裏腹にほんの数か所。文字通り最小限の補強だが、たったこれだけの補強材追加でこんなにボディ強度を上げられるというノウハウに舌を巻く思いだった。
サスペンションはハッキリ言って固い。前述のタイヤ、RE-11が今どきのトータルバランス重視のスポーツタイヤと異なり、ガチガチに固いサイドウォールを持っていることも手伝って、路面の大きな段差やうねりを通過すると、突き上げや揺すられが強く発生する。
だが、その固さの中にも、実は動的質感の高さがちゃんと内包されていて、いったん突き上げや揺れが発生しても、それが長々と残らず、それらの外乱要因を乗り越えた直後にはピタッと止まるのだ。上等なスポーツカーのような足である。
エンジンは1.5リットルで、最高出力は116馬力。数値的には非力だが、減速比の低い5速MTとの組み合わせによって、なかなかのパンチ力を示した。変速段数は5速だが、トップギアでもGPS計測による実スピード100km/h時に3200rpmも回る。いわば6速のない6段変速のようなものだ。
このマーチNISMO Sを700km近くドライブしてみたが、山道から高速、普通の道に至るまで、どこを走っても愉悦を味わえるクルマであった。まさに往年の日産が持っていたテイストそのものである。
もちろん日産のような年産500万台クラスの大型メーカーは、そんな趣味的なクルマばかりを作るわけにはいかない。だが、マーチNISMO Sのような精緻なテイストづくりのノウハウはスポーティモデルだけでなく、柔らかなクルマを上質に仕上げるのにも通じるものだ。