“作る力”のほうについてだが、最近それを考えさせられる興味深いモデルに乗った。欧州Aセグメントミニカークラスの「マーチ NISMO S」である。
マーチといえば、かつてはトヨタ「スターレット」と人気を二分するクルマだったのだが、現行モデルは東南アジア市場をメインターゲットに開発された。タイ工場で生産され、日本で売られているものも輸入車である。
アジア向けのモデルの例に漏れず、徹底的にコストが切り詰められた格安車で、性能も質感も高くない。デビューが2010年7月とすでに旧態化していることもあって、今や不人気。今年の1~6月の販売台数は5884台で、1か月平均1000台も売れていないという有り様である。
そこで、日産の子会社であるカスタマイズファクトリー、オーテックがそのマーチに手を入れ、日産のモータースポーツブランドであるNISMOの名をかぶせたものがマーチNISMO Sだ。
乗る前は果たしてあの安グルマを何とか料理のしようがあるのか──と思っていたのだが、実際にドライブをしてみたところ、驚くことにクルマを走らせているという実感爆発の、痛快無比なスポーティハッチに仕上がっていた。
まずはボディだ。軽量化と低コストを最重要視したペラペラなボディが、補強によって別物のような強固なシェルに生まれ変わっていた。マーチNISMO Sは車体(205/45R16)に似合わぬ幅広タイヤを履く。銘柄はブリヂストンの「ポテンザRE-11」。少し古いモデルだが、乾いた路面におけるグリップ力の強固を最重要視したハイパフォーマンスタイヤ。これよりグリップのいいものはセミスリックタイヤのようなものしかないだろう。
そんなハイグリップタイヤを履いてコーナーを高速度で駆け抜ければ、ヤワなボディだとすぐにねじれが発生する。だが、マーチNISMO Sはまったくと言っていいほどねじれが感じられなかった。
コーナーで深々とロールするくらいの横Gがかかっても、前の左右輪が鋼鉄の棒で完全締結されているかのようなフィールで、ボディのねじれに起因するよれた動きが一切なかった。飛ばしても飛ばさなくてもコーナーを曲がることが楽しくなってしまうようなクルマだった。