都内の主婦・橋本夕子さん(仮名・40代)も同様の悩みを打ち明ける。もともと、道で会ったときに目があうと所構わず食ってかかるようなことがたびたびあった女性が、あるときから自宅の前の道路を通る人間を誰構わず写真に撮り、フェイスブックなどのSNSに“監視されている”“スパイ”だとコメントをつけてアップし始めたのだという。
「女性の自宅には玄関に3台、前の道路に向いて7台も防犯カメラがつけられていました。私は女性と比較的仲が良かったので、直接話をしたのですが…。防犯カメラは安く買えるし、あなたも何かあった時に大変だからカメラを設置しなさい、と勧められるばかりで話が噛み合わず。注意した町内会長さんは、顔写真や自宅の映像をネットにアップされてしまい、警察に相談してもどうすることもできないと言われました」(橋本さん)
結局、橋本さんの件でも「防犯カメラだらけの家」の噂を聞きつけたり、ネットで見た人たちが面白がってやってきては、写真や動画を撮るようになった。家の主の女性は「本当にスパイが来た」と、連日のように警察を呼んでいる。
2015年に防犯・監視カメラ市場が初めて800億円を突破、その後も増加を続けている。昨年、ALSOK(綜合警備保障)が実施したアンケートによれば、同様の調査をした2015年と比べて、防犯カメラが「とても増えたと思う」27.7%、「やや増えたと思う」51.1%にのぼった。その多くは繁華街や駅などを指しているのだろうが、住宅街でも見かけることが増えたと感じている人は少なくないだろう。
防犯カメラを取り付けることが簡単になったため、不安な状況に置かれている人がそれを活用するのは、何もできずに無防備でいるよりもよいだろう。だが、派生して発生するトラブルを防ぐことはできないのか。ネットで“防犯カメラの家”を発見して面白がり、その家や住人にイタズラを仕掛けることは悪質だと言える。何らかの原因によって過敏にならざるを得なくなった人間を、さらに追い込んでいるようにも見える。なんでも面白いネタとして消費する傾向は、そろそろ見直されるべきではないのか。