古来そこには「解池」という大きな塩湖があり、運城は内陸部では屈指の塩の産地として知られていた。農耕には不向きな土地であったために早くから塩の販路開拓が進められ、そこで培ったノウハウをもとに他の取引にも乗り出し、いつしか山西商人は安徽商人(新安商人とも。安徽省旧徽州府出身の商人を指す)と並んで、中国経済界を牛耳る存在と化していた。
いっぽうで関羽は、隋の時代に仏教の伽藍神となったことに始まり、宋の時代には“文神”の孔子に対して“武神”の代表格となったうえ、国家の守護神としての地位も確立、道教においても「関聖帝君」という神名を贈られることとなった。
そんな関羽が「商売の神」となった背景としては、顧客との信頼関係を至上命令とする商人にしてみれば、何にもまして義を重んずる関羽こそ、神として相応しかったことが挙げられる。かくして山西商人の職業神でもあった関羽は出身地に関係なく、広く商業活動に従事する者全体に受け入れられ、海外にも伝播するところとなった。
異郷では同胞の助け合いが不可欠というので結社づくりも盛んになるが、その入会にあたっては小説『三国志演義』でもお馴染みの「桃園の誓い」に倣った儀式が行なわれるのが普通で、関羽と関帝廟は中国本土以外にあっては連帯の象徴ともなったのだった。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『春秋戦国の英傑たち』(双葉社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など多数。