「若い女性でもダイエットのために長時間の入浴をして熱中症になるケースはあります。意識を失ったとき、一人暮らしだと助ける人がいないので、亡くなるケースもある」(黒木教授)
一方、最近は夏場のプールで起きる熱中症についても盛んに報じられ話題になっている。「水に入って泳いでいるのに熱中症になるのか」と意外に感じるが、実際に、自治体や学校が独自に基準を定め、水温+気温が65℃を超える場合など暑すぎる日はプールの授業を中止にするといった対応が全国に広がっている。
独立行政法人日本スポーツ振興センターが公開している「学校屋外プールにおける熱中症対策」によると、2013年度から2017年度までの5年間に小中学校のプールで起きた熱中症の発生件数は179 件(死亡例はなし)。発生状況の内訳は「水泳中」が92件(水泳直後も含む)、見学中や掃除中などの「プールサイド」、「更衣室」、「活動終了後」が計87件だった。
上記の調査で半数以上を占める「水泳中」の熱中症について、黒木教授はこう指摘する。
「熱中症に関する論文はほとんど目を通していますが、“プール熱中症”に関する論文は見たことがない。ただ、前述の報告書をみると、水温が中性水温(33℃〜34℃)より高い場合は、水中でじっとしていても体温が上がるため、プール熱中症になることがあるようです。水泳中の熱中症は年間20件弱なので、かなり特殊な条件下での熱中症と思われます。入っても冷たいと感じないプールに長くいれば熱中症にはなりえますし、プールサイドに上がっても猛暑ですから、体温を下げる機会がなく、いつ熱中症になってもおかしくありません。そのため、水温と気温を足した温度が65℃以上になる時にはプール使用を中止する施設もあるようです。
しかし、普通、いくら水温が高いといってもせいぜい30℃くらいですから、水に入っていれば体温を冷やす方向に働くはず。熱中症になったときに水風呂に入れるという対処法があるわけで、おかしいと思う。実際に水泳中に熱中症になった例があるというが、筋トレなど激しいトレーニングをしたとか、暑いプールサイドで長時間待たされたとか、水温に問題があったとか、『水に入る前にすでに熱中症になっていたケース』が相当数含まれているのではないか」
「水泳中」にも熱中症のリスクがあると結論付けるのではなく、水に入る前後の状況を調査すべきという。
屋外プールの水温が33℃〜34℃までまで上がるときは、気温が人間の体温と同じかそれ以上にまで上がっていて、プールサイドは“灼熱の地獄”と化しているはず。さすがにプールの授業は控えたほうがいいかもしれないが、屋外でのスポーツと同じレベルでプールでの水泳そのものが危険であるかのようなイメージが広がるのはいかがなものか。
それよりは毎日入っている“お風呂”に熱中症のリスクが潜んでいることを意識したいものだ。
●取材・文/清水典之(フリーライター)