◆飲酒で疲労やストレスをまぎらわす
元日本航空機長で、B747型ジャンボジェット飛行時間の世界記録を持つ航空評論家の杉江弘氏は、「パイロットの過酷な勤務体系」が背景にあると指摘する。
「現在は慢性的なパイロット不足のなかで空港の24時間化や路線増加が進み、パイロットの仕事がますます激務になっています。例えば国際線の欧州便や米国西海岸便は、以前は現地到着から2泊しましたが、現在は1泊のみ。半日に及ぶフライトで米国西海岸に朝10時に着陸したら、翌朝10時には日本に帰る便に搭乗しなければならない。この場合、米国に到着後3~4時間仮眠するとその夜は眠れなくなり、時差にも悩まされます。
また国内線の場合、飛行機が着陸してから次のフライトまでの時間は最短で25分。この間に副操縦士は次のフライトデータを打ち込んで機器の点検を行い、機長は外部点検を行い、時にはCAが担当する清掃やベルト直しを手伝います。そのうえで1日5回の離着陸というケースもあります」
こうした激務が構造的にアルコールを誘引するというのが杉江氏の見立てだ。
「自動操縦が進化したとはいえ、フライト中は計器確認や前方注意などで、パイロットは気を抜く暇がありません。しかも連続乗務による疲労が重なり、ストレス軽減や不眠解消のためアルコールに手を出すケースが多い。
一昔前は海外渡航先でパイロットとCAが一緒に食事して、CAが『キャプテン、そろそろフライト12時間前だからお酒はやめましょう』と制止したものですが、いまは時間や気持ちにゆとりがないため単独行動が多くなり、グループの自浄作用が働きません」(杉江氏)
◆規制強化がパイロットを追い詰める
2018年11月には、日本航空のロンドン発羽田行きに搭乗する男性副操縦士から、英国法が定める基準値の約10倍のアルコールが検出され、出発前に現地警察に逮捕された。副操縦士は「宿泊先のホテルでワイン2本のほか瓶ビール3本、缶ビール2本を飲んだ」と話した。
当地で開かれた裁判では、副操縦士の弁護人が、「被告人は家族や幼い子供たちと長期間離れる寂しさに加えて、不規則な就業時間のストレスから不眠症になり、ストレスと不眠症を飲酒で解決しようとした」などと述べた。