ビジネス

止まらない百貨店離れ 地方の「年金経済」はいよいよ終焉

8月15日で閉店される山形の老舗百貨店「大沼」(米沢店)

8月15日で閉店される山形の老舗百貨店「大沼」(米沢店)

 地方百貨店の衰退が止まらない。8月15日には山形の老舗百貨店「大沼」(米沢店)が地元住民に惜しまれつつ閉店する。縮小均衡にある百貨店の撤退は、単なる経営手法の問題にとどまらず、地方経済の衰退を晒すことにもなる。神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏が、苦境に喘ぐ地方百貨店の現状をレポートする。

 * * *
「あの大沼がねえ」──60歳代の主婦は、いまだに驚きがあるという。「開店した当時は大騒ぎで、私も親に連れられて長い列に並んだ記憶がある」と話す。

 山形県の地元百貨店大沼は、経営が悪化し、2018年4月にいったんは投資ファンドが経営権を握ったが、不明朗な経営手法などが問題となり、2019年3月には再び地元資本を中心とした投資組合が経営権を握るなど、大きな混乱を見せた。

 そんな中、山形県置賜(おきたま)地域で唯一の百貨店だった大沼米沢店は、2018年4月にリニューアル工事を施したものの、テナントの退店が続くなど赤字傾向から脱することができず、2019年8月15日での閉店が発表された。

 大沼の経営危機に対しては、山形市長や山形県知事が相次いで懸念を表明し、支援を呼びかける発言を行った。こうした一連の動きには反対する声も多いが、「都会の人からすると理解できないかもしれないが、百貨店がなくなってしまうということに対する寂しさや、(地方が)取り残されてしまうのではないかという危機感は強い」と50歳代の公務員は説明する。

◆地域社会にとっての百貨店とは

 大沼には、「地域のシンボルだし、県民としては支援したい」という意見が聞こえてくる一方で、「1民間企業が時代にそぐわなくなった業態を続けてきて、経営危機に陥っただけの話で、それを官民上げて支援する必要があるのか」と批判的な意見を持つ人も多い。特に中小企業経営者の中には、経営判断のミスがここまでの状況を生み出しており、責任の所在が曖昧のまま“官営百貨店”のようになるのは反対だとする意見もある。地元企業の経営幹部はこういう。

「支払い資金にも切迫している状況で、新元号のお祝いと称して餅まきや記念品の無料配布をしたり、この状況で制服のリニューアルを発表したりするなど、経営者的には首をかしげるようなことが続いている。伝統と歴史があるから、理解してもらえるというのは甘えではないか」

「世代によっても考え方が違うのでは?」と話すのは、40歳代の女性会社員だ。「親たちの世代は、百貨店に子供の頃の思い出があるが、40歳代から下はショッピングセンターに行くことが多かったので、馴染みは薄い」と言う。事実、30歳代の女性会社員は、「自分たちの世代にはそんなに思い出もないし、むしろ今までよくもったなあというのが正直な気持ち」と大沼閉店の感想を漏らした。

関連キーワード

関連記事

トピックス

防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
「服のはだけた女性がビクビクと痙攣して…」防犯カメラが捉えた“両手ナイフ男”の逮捕劇と、〈浜松一飲めるガールズバー〉から失われた日常【浜松市ガールズバー店員刺殺】
NEWSポストセブン
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《左耳に2つのピアスが》地元メディアが「真美子さん」のディープフェイク映像を公開、大谷は「妻の露出に気を使う」スタンス…関係者は「驚きました」
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(27)と伊藤凛さん(26)は、ものの数分間のうちに刺殺されたとされている(飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
「ギャー!!と悲鳴が…」「血のついた黒い服の切れ端がたくさん…」常連客の山下市郎容疑者が“ククリナイフ”で深夜のバーを襲撃《浜松市ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
和久井学被告と、当時25歳だった元キャバクラ店経営者の女性・Aさん
【新宿タワマン殺人・初公判】「オフ会でBBQ、2人でお台場デートにも…」和久井学被告の弁護人が主張した25歳被害女性の「振る舞い」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(Instagramより)
《愛するネコは無事発見》遠野なぎこが明かしていた「冷房嫌い」 夏でもヒートテックで「眠っている間に脱水症状」も 【遺体の身元確認中】
NEWSポストセブン
大谷翔平がこだわる回転効率とは何か(時事通信フォト)
《メジャー自己最速164キロ記録》大谷翔平が重視する“回転効率”とは何か? 今永昇太や佐々木朗希とも違う“打ちにくい球”の正体 肩やヒジへの負担を懸念する声も
週刊ポスト
『凡夫 寺島知裕。「BUBKA」を作った男』(清談社Publico)を執筆した作家・樋口毅宏氏
「元部下として本にした。それ自体が罪滅ぼしなんです」…雑誌『BUBKA』を生み出した男の「モラハラ・セクハラ」まみれの“負の爪痕”
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
「佳子さまは大学院で学位取得」とブラジル大手通信社が“学歴デマ報道”  宮内庁は「全報道への対応は困難。訂正は求めていません」と回答
NEWSポストセブン
米田
「元祖二刀流」の米田哲也氏が大谷翔平の打撃を「乗っているよな」と評す 缶チューハイ万引き逮捕後初告白で「巨人に移籍していれば投手本塁打数は歴代1位だった」と語る
NEWSポストセブン
花田優一が語った福田典子アナへの“熱い愛”
《福田典子アナへの“熱い愛”を直撃》花田優一が語った新恋人との生活と再婚の可能性「お互いのリズムで足並みを揃えながら、寄り添って進んでいこうと思います」
週刊ポスト
生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト