ところが最近、母は目がとてもいいということを知った。

 年1回の長寿健診の時だった。主治医からの眼科検診指示で、近所の眼科で検査を受けて初めて判明したのだ。

 眼科医は若い美人女医さん。そう難しくもない視力検査や眼底カメラ撮影で、母がいちいち手間取っても、やさしい笑顔で対応してくれる。

「これは、どこが開いていますか?」と、女医が視力検査表を指すと、母は大慌てで、「えーっと…右? 右はどっち? こっちかな?」。

 ちなみに中学生からずっと極度の近視の私には、めがねをかけて目を凝らしても検査表の半分も見えない。母もきっと見えないのだろう。意味がわからず取り繕っているのかもしれないと思って、「すみません、認知症があって…」と小声で伝えたが、女医は笑顔を崩さずに注意深く母の答えを待ってくれた。

 そして結果はすぐに出た。

「視力は両目とも1.0。いいですね~。白内障も、お年相応ではあるけれど、まだ治療が必要な段階ではありません。網膜の方もきれいですね」

 えっ、私より視力よし!? 確かに観劇も美術展も、母は不自由なく楽しんでいる。負け惜しみではないが、前髪を焦がした話を振ってみると、

「高齢になるとどうしても目のレンズが曇るので、色の明暗などは見えにくくなります。判断力や瞬発力も鈍くなるし。何より“見え具合”は自覚するのが難しいんですよね」

 年1回でも専門医に診てもらう機会があるのは心強いが、実は母が長寿健診で眼科を受診できるのは、血糖値が要観察レベルで糖尿病網膜症リスクがあるため、主治医が特に指示するからだ。何が幸いするかわからないものである。褒められた母は機嫌よく、珍しく帰途でも、まだ検査のことを覚えていた。

「あの先生、なかなか美人さんだったわね」

※女性セブン2019年9月19日号

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