一方、「O貴一」はおろおろのO。代表作ドラマ『最後から二番目の恋』では妻を亡くした45歳の生真面目おじさん役で、娘にエッチな本(?)を見つけられたり、やり手女性(小泉今日子)にやり込められておろおろの連続。例のカッパとタヌキのCMでも、最近、広瀬すずと彼女が連れた新バージョンのカッパとタヌキを見つけておろおろ度がアップしてます。
そんな彼の新作映画といえば『記憶にございません!』三谷幸喜脚本・監督と聞けば、こりゃどう考えてもOバージョン…。しかし、そう簡単にいかないのが、この映画のみどころともいえます。なにしろ、中井貴一が演じる総理大臣・黒田啓介の態度が悪い! 国民の声に耳を貸さず、国会で追い詰められると「だから、うるせいなあ、もう! 記憶にねえんだ。記憶にございませーん」と憎々し気に答弁するのです。出たな、ブラックA貴一。しかし、怒った国民が投げた石が当たって卒倒。記憶を失くした黒田は、O貴一に変身。
夜のニュースで自分の支持率が「前代未聞の2.3%」と知ると(ちなみにニュースキャスターは女優初挑戦の有働由美子)「なんでそんなに人気がないんでしょうか」とおどおどと聞いたりする。あまりの変貌ぶりに周囲は困惑、大騒動が巻き起こります。
この姿を観て、私は思ったのです。三谷監督は「この俳優のこういう姿が観たい」というところから物語を発想、構築していく方。ということは、三谷さんもやっぱり、AとO両方の中井貴一を観たかったに違いない!! ですよね? 研究者としては三谷監督に「ありがとう」と言いたい。言われても困ると思われそうですが、ここで言わせていただきました。そんなわけで、私の研究はまだまだ続きます。