なかなか素直になれない父と娘や、前作よりは前進したらしい大杉と美希の関係も見もの。また銀座の名店「とん■(き=「七」を3つ」や「不二」で彼らが交わすトンカツ談義も楽しい限りだが、そうこうする間にも、テープの行方を追う残間が何者かに拉致され、早智子までもが殺されてしまうのだ。
◆小説の価値はどこにあるか
この間、美希は追跡中のまほろに逆に後を付けられ、自分は三重島が芸者に産ませた娘〈弓削ひかる〉で、洲走かりほの妹・まほろは別にいる、という衝撃の事実を聞く。しかも本物のまほろは三重島の愛人を装う傍ら、ひかるとも関係を持ち、姉を死に追いやった美希や、自分たちを利用した三重島に復讐するために、姿を消したのだと。
「かりほに妹がいるなんて、私も驚きました(笑い)。でもあの執念を見ればそうかとも思える。人を殺したくて殺す百舌に動機は要らないとも言えますが、業とか不条理なんて決まり文句を、私は書きたくないんです。人の行動には何かしら条理があって、百舌を利用した側にも相応の理由はある。本書の悪役たちも家では善き父親かもしれない。誰か特定の悪人が世の中を悪くするわけじゃないから、余計怖いんです」
物語はやがて、ある人工知能技術の国際争奪戦へと展開し、研究資金の流れや武器にも日用にもなりうる〈デュアルユース〉技術の危うさなど、看過できない現実を読者につきつける。
めぐみと美希はそれぞれ、米国防総省の出先機関OSRAD(戦略研究開発事務局)の技術顧問〈ケント・ヒロタ〉や栄覧大学教授でAI研究の権威〈星名重富〉、その旧友で在日三世の貿易商〈荒金武司〉をマークし、星名がOSRADの資金で開発した技術を荒金経由で北朝鮮に流しているのではないかと内偵を進めていた。