まずは主人公の公安刑事〈倉木尚武〉が第3作目で非業の死を遂げ、初代百舌こと新谷和彦も死んだ。その後も歴代の百舌たちや主要人物が次々に退場し、この完結編でも「次は誰?」と、厭な予感を拭えない。
「先程の話と多少矛盾するけど、作者は読者と違って登場人物に愛着を持ち過ぎてもダメで、その例が『羊たちの沈黙』ですよ。レクター博士の人気もあって、作者のハリスは彼の成育歴なんかを4作目で書いてしまうけれど、怪物はなぜ怪物になったのか、わからないから怖いわけでしょ?
だからこのシリーズでは倉木も新谷も津城も洲走も早々に死んで、残るのは大杉と美希と東都ヘラルド記者の〈残間〉くらい。それでも悪は滅ぶことなく、百舌は何度も蘇るというのが軸でもあるし、ある人が死にそうで死なないとか、どんでん返しかと思ったら違うとか、最後の最後まで手は尽くしたつもりです」
2年前、ある鉄鋼商社の武器輸出疑惑と、「警察省」創設を目論む政界の陰謀に迫った大杉たちは、今回の事件にも黒幕・三重島の影を見ていた。その日、茂田井邸には介護士資格を持つ40歳下の後妻〈早智子〉と秘書〈鳥藤和一〉がおり、賊は客人を装って早智子に薬をかがせ、眠らせた間に夫の殺害に及んだらしい。そしてその訪問者が、かりほの妹で三重島の愛人〈弓削まほろ〉の名刺を残していたのだ。
2年前、洲走事件と三重島の関与を裏付ける証言テープを入手し、挙句殺された、右翼雑誌編集長〈田丸〉の遺体発見現場と茂田井邸は目と鼻の先。そのテープも未だ行方不明な中、田丸の元部下である残間としても当然黙ってはいられない。
早速、行きつけのバーで情報交換する大杉、美希、残間の3人に、警視庁生活経済特捜隊に籍を置く大杉の娘〈めぐみ〉や美大講師の傍ら大杉の助手を務める〈村瀬〉、残間の部下で東都ヘラルド社会部の〈平庭〉もやがて加わる。