だが、「禍福はあざなえる縄の如し」で、2016年10月に異物混入事件が発覚。ラーメンどんぶりが二つに割れるようなスキャンダルが起きた。静岡市内の店のパート従業員の女性がチャーシューの仕込み作業をしている最中に左手親指の一部を誤って切断。それがチャーシューの保管容器に3日間に入ったままになっていたのだ。
保健所への報告が遅れたことも重なり、問題の特異性から報道が過熱した。消費者の反応も厳しく、売り上げと客数は1割以上落ち込み、業績は低迷。2018年3月期は最終損益が32億円の赤字に転落し、監査法人から「事業継続のリスク」を指摘された。企業の継続に黄信号がともったのだ。
そんな緊急事態に傳氏が真っ先に取った策が、赤字店舗の閉鎖だ。国内直営店は2017年8月に548店に達していたが、店舗の閉鎖を進め、今年8月末時点で506店まで減らした。
だが、業績浮上のテコとなったのは、不採算店の大量閉鎖などリストラだけではない。他業態への大胆な転換である。
「いきなり!ステーキ」のペッパーフードサービス(東証1部)が元気いっぱいの時期にフランチャイズ(FC)契約を結び、2017年12月21日に福島市でステーキ店を開業。2018年3月までに福島、宮城両県の4店を含め6店にウイングを広げ、2019年3月期には10店が新たに加わり、トータルで16店になった。
その後、「いきなり!ステーキ」は失速気味だが、機を見るに敏だったことは確かである。1号店(福島太平寺店)は幸楽苑が運営する“裏業態”のとんかつ店「とんかつ厨房伝八」を改装した。とんかつよりステーキのほうが客単価が高いから、客が来れば利益率は確実にアップする。
傳社長は同日の開店セレモニーで、業績低迷にふれながら「事業の立て直しに一番早いのは、いま日本で一番元気がいいところと組むことだ」と語り、「(ステーキ店に)ヒントをもらいながら、ラーメンで必ず良い結果を出したい」と強調した。
不採算店の業態転換も奏功し、2019年3月期は黒字転換の見通しとなり、実際に10億円の最終黒字を達成した。そして、最悪期を脱したと肌で感じた傳氏は2018年11月1日付で会長になり、長男の昇副社長にバトンを渡した。