さらに2018年11月14日に日本政府は、韓国政府が自国の造船会社に対し過剰な金融支援を行っているとして、WTOに提訴した。韓国は2015年に造船会社の大宇造船海洋に対し約1兆2000億円にも及ぶ公的支援を実施し、海運会社にも船舶の購入を支援してきた。過剰な公的支援によって、韓国の造船会社は採算が取れないような安い価格で受注が可能になり、市場を歪め、公正な競争を阻害してきたというのが日本側の主張である。
韓国造船業のダンピングは長年にわたって日本の造船業界内で不満がくすぶり続けてきた問題で、過去においては欧州委員会も韓国をWTOに提訴し、一部違反とする判決が出ているが、日本もようやくここにきて提訴した格好だ。
今回の半導体材料の輸出規制強化に関する提訴は韓国側からだが、それ以外はすべて日本側からの提訴である。しかし、ここ数年の間にWTOへの提訴がこれほど頻発しているのはなぜか。国際政治学者の六辻彰二氏はこう解説する。
「背景に元徴用工訴訟があるのは間違いありません。今までは、日韓でくすぶる問題があっても、日米韓の同盟関係があるので穏便に処理しようとしてきましたが、元徴用工訴訟を契機に政府は方針を変えたということです。
たとえば、竹島問題については、日本は国際司法裁判所に提訴しようとしていますが、両国が合意しないと裁判にならないのに対し、WTOの場合は2国間での協議が決裂すれば、否が応でもWTOによる審理にかけられます。だから、使い勝手が良く、それでWTO提訴が続いているのです。日本側としては、韓国の不公正さを国際社会にアピールするのが狙いと考えられます」
日本産水産物の禁輸問題では、日本の水産物が放射能で汚染されているかのような誤ったイメージが広がってしまう懸念が指摘された。WTOの裁定は、貿易面に限らず国のイメージを左右する可能性がある。今後も論理的な主張を積み重ね、勝訴が続くことを期待したい。
●取材・文/清水典之(フリーライター)