異色の経歴から「ラグビー界のシンデレラボーイ」と称されるのは、現在も東芝ブレイブルーパスで現役を続ける大野均選手。高校時代は野球部の補欠で、日本大学工学部に進学後、ラグビーを始めた。体の大きさと走力が関係者の目にとまって東芝に入社すると、みるみる実力を発揮して日本代表に選ばれ、積み上げたキャップ(代表としての出場数)は歴代最多の98を誇る。
「スクラムを押すパワーが必要なロックでありながらサポートやディフェンスでも体を張って駆け回り、試合中に体重が7キロ減ったことがあります。プレーだけでなく人柄も素晴らしく、誰からも愛されるナイスガイ。“酒がガソリン”と言われるほどの無類の酒好きで、選手に厳格な規律を課したエディー・ジョーンズ前日本代表監督が『キンちゃん(大野選手の愛称)だけは飲んでいい』と許可したとの逸話があります」(小林氏)
そもそもラガーマンは大野選手のように酒飲みが多いが、「その中でも自分が酒豪ナンバーワンかもしれません」と笑うのは代表キャップ30を誇る大八木淳史氏だ。
「僕の時代は、みんなビール10リットルくらい平気で飲んでました。ジャパンでも『試合は負けてもアフターマッチファンクション(試合後の交歓会)では必ず勝つ』が僕のモットーやった。1987年にニュージーランド代表が来日した際は、試合後の交歓会が終わった後もホテルのバーや部屋で延々と飲み続けて、気づいたら翌日の夕方。誰かが『もうええ加減にせいや!』と叫んでお開きになりました(笑い)」(大八木氏)
こうした豪快さもラグビー選手の愛すべき魅力である。大らかさと情熱、闘争心、人格、献身……それらすべてをひっくるめた「魂」を先人から受け継ぐ強みを、ジャパンの面々は日本大会でも存分に発揮してほしい。
●取材・文/池田道大(フリーライター)