海に流して希釈すれば問題がないという理由から、世界中の原発でトリチウムを含む処理水は海洋放出されている。福島第一原発敷地内のタンクに貯められた処理水のトリチウム濃度は平均で1リットル当たり100万ベクレルで、1000倍に希釈すれば環境基準値を下回る。そのうえで海に流せば海水でさらに希釈されるので、科学的には問題ないと言える。
小泉氏はこうした知識がないことを世間に晒してしまったが、受難はまだ続いている。9月17日に福島県を訪問した際に、福島県内の放射能汚染土を県外へ移すという政府の約束について記者から聞かれたときのコメントは「ポエムだ」と笑いものにされた。国連の気候行動サミットに環境相として出席したときの記者会見での「セクシー発言」に対してもネットには批判の声があふれた。隣の席にいたフィゲーレス前事務局長のセクシー発言を紹介しただけで、これで批判されるのは少々理不尽だが、石炭火力を減らす方法を聞かれて具体的に何も答えられなかったことは批判されても仕方がない。
小泉氏の話に中身があるかないかはさておき、喫緊の問題は、処理水の処分である。
小泉発言を受けて、松井一郎大阪市長は9月17日の記者会見で、トリチウムを含んだ処理水について、「自然界レベルの基準を下回っているのであれば海洋放出すべきだ。政府、環境相が丁寧に説明し、決断すべきだ」と述べつつ、「大阪まで持ってきて流すなら、協力の余地はある」と、大阪湾への放出を認める発言をした。
これには賛否両論巻き起こった。大阪府の漁協組合連合会が反対する声明を出し、兵庫県の井戸敏三知事が「食べ物、特に水産業には致命的な風評被害が懸念される」と、県としては注視する姿勢を示した。ネット上では、「安全なら福島で流せばよく、わざわざ大阪まで処理水を運搬するのは税金の無駄遣い」との意見も見られる。
一方で、同じ維新の会の橋下徹・元大阪市長はツイッター(9月17日)で、〈大阪湾で流すのは費用がかかるので無理と言うのは実行力のないインテリの思考。まずは安全性の確認をして福島以外で少しでも流して全国民で負担する。その後東北や福島近海に。これが実行力〉と、震災瓦礫の焼却処分のように、全国で負担すべきとの考えを示した。日本中の海で流せば、福島に対するヘイトを抑えられるというアイデアだ。
結局、この問題の核心はどこにあるのかいうと、福島の漁業関係者らが懸念しているのは安全性ではなく、「風評被害」だということだ。