どの業界も総じて慢性的な人手不足に悩まされているが、とりわけ外食企業は、名だたる大企業、あるいは勢いのあるIT系企業と違って、優秀な人材がなかなか集まりにくい。そうした危機感も粟田氏の背中を押したといえる。
実際、新オフィスのメディア向け内覧会の際、粟田氏はこう語っていた。
「渋谷の活力を当社の成長力に活かしたかった。外食企業は、日本はもとより海外にも積極的に打って出ていくべきと常々考えている。
ここ渋谷は街全体が再開発で非常に活気づいており、当社もさらなる高みをこの地で目指し、従来の外食企業に持たれるようなオフィスイメージも払拭していきたい。そのために音楽やアート、教養を深める書籍なども置き、社員の感性を刺激していく」
オフィス空間を内覧してみると、確かにとても外食企業のオフィス空間とは思えず、まさにIT系企業のそれだった。
堅苦しいオフィス家具はなく、パソコン片手に自由に作業場を移動できるフリーアドレス空間で、ハイチェアー、ハイカウンターで仕事をする人もいれば、寝そべることができるスペースやハンモック、シエスタルームもある。すぐに集えるよう、随所にテーブルやソファーが配置されており、コンセプトは、“帰ってきたくなるオフィス”だそうだ。
さらにカフェテリア方式の社員食堂も導入。トリドールHDでは、パンケーキカフェの「コナズ珈琲」も展開しているせいか、オフィス内はポップミュージックに交じって時折、ハワイアン音楽も流している。
社員食堂も1年半ほど前から構想していたそうで、毎日来ても飽きないよう、約400食のメニューを用意。同社グループの店で展開する人気メニューをはじめ、フランスや中国、イタリア、ドイツ、ベトナム、タイなど、多国籍の料理を取り入れることで、食の感性も磨いてほしいという。この点は外食企業ならではかもしれない。