速水から約1週間後、水嶋ヒロの動画『Japanese Home Style Cooking Hiro Mizushima』も配信された。これまた負けず劣らずの濃い動画だった。冒頭から他の料理動画と異なった魅力押し出す水嶋。「3分44秒」コレ、なんの時間かお分かりだろうか。水嶋が料理を始めるまでにかかった所用時間である。#1の全動画時間は8分38秒、そのうち前半3分44秒は水嶋が自身の料理観を語る時間にあてられる。下記の3点が重要項目である。
【1】料理初心者の水嶋がこの動画を作る理由。
【2】日本の家庭料理の可能性。
【3】初回に作ることになった「からあげ」について。
水嶋にとって「からあげ」とは一番身近な家庭料理のひとつであり、どこの家庭にもオリジナルレシピがある料理、日本人にとってのソウルフードだと言う。そして、最後に漏れたのが「娘にパパの唐揚げおいしいね!と言ってもらいたい」といった本音。水嶋は娘に「モテたい」ために料理と対峙する。
自身の語りの長さに気づいたのだろうか、半笑いで「もうやろうか!」と料理をスタートさせた水嶋。料理以上に語りが印象に残った。
帰国子女、高校サッカー選手権出場、俳優、ベストセラー作家の水嶋、速水とは異なったベクトルで完璧な男である。しかし、動画を観ていると意外にも不器用な素顔がのぞく。下ごしらえからつまずく。鶏モモ肉から余分な脂身を上手く取り除くことができない。包丁が油で滑り「あぁ~」とため息。悪戦苦闘しながら調理を続けていく。そして、完成した水嶋作の「からあげ」。黒鉄の皿に載せられたせいか、家庭料理でありながら含蓄のある佇まいを醸し出す。動画は「Sushi Tempura Geisha~♪」「Manga Otaku Bento Bento~♪」「Karaoke Sake Konbu~♪」といった日本らしい単語が連発する歌が流れ、終わっていく。
この2人の動画を全て鑑賞した後、そこははかとない奇妙さが残った。速水、水嶋の動画は、料理動画というジャンルでありながら、料理の作り方に主題に置かれていない。『M’s TABLE by Mocomichi Hayami』『Japanese Home Style Cooking Hiro Mizushima』共に料理ではなく2人が前面に出ている。速水、水嶋の抑えられない個性は料理を薄口に……。ある意味、料理動画に寄せたドラマと捉えた方が腑に落ちる動画。速水、水嶋が演じるのは主役の料理人、ゆえに自ら作った料理を試食することはない。
奇しくも同時期に料理系YouTuberとなった2人は互いに意識しているはず。84年生まれのイケメン俳優、今後どちらの動画がバズっていくのだろうか。ちなみに現在はほぼ互角(水嶋が検討していることに驚いた)。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)