小さな成功を分かち合う中村の手法から「One Team」が生まれた(撮影/藤岡雅樹)

小さな成功を分かち合う中村の手法から「One Team」が生まれた(撮影/藤岡雅樹)

◆サントリーの営業マンとして学んだこと

 3つめの、当たり前のことを当たり前にやった上で、状況に応じて、臨機応変に対応していく力というのは、例えばこういうプレーだ。

 またまたアイルランド戦を例に取ると、後半18分、マイボールのスクラムでの攻撃。SH田中から中村が直接ボールをもらって、前に出て、相手のディフェンスにぶつかる。いい形で前に出て、ボールを出すと、すぐに立ち上がって、リポジションする。姫野が縦を突くが、このとき、左サイドの外側がチャンスだった。

 中村はSH田中に「こっちへボールをくれ」と合図を出してボールをもらうと、すばやく一人(隣の松島幸太郎を)飛ばして、CTBラファエレにパス。この瞬間に「2対1」の状況ができ、ラファエレがWTB福岡堅樹にパスして、逆転トライが生まれた。

 この場面、本人はおそらく、当たり前のことを当たり前にやっただけだと言うだろう。しかし、縦に突進して、当たって、すぐにポジションを整えるところまでは「当たり前」かもしれないが、そこから先は、状況を見て、臨機応変に判断をしている。

 マニュアル的な「当たり前」に加え、状況に応じた的確な判断、その場面に応じた個別対応をするというところは、以前、中村が語っていた話を思い出させてくれる。中村は所属先のサントリーでは、社員として法人営業に携わっている。その仕事についての話だ。

「営業職で酒屋の社長さんと商談することが多いのですが、ある社長さんに対して、マニュアル的に横並びで商談話を持っていったところ、それを見抜かれてしまったことがあるんです。『マニュアル営業はいらない。こっちは命懸けで経営しているんだから、他と一緒じゃなく、うちに対して最適な企画を持ってきてほしい』と言われました。当たり前のことを当たり前にやっているだけじゃダメだと、痛感させられた瞬間でした」

 日本代表のCTBとして最前線で体を張る中村は、会社の最前線で体を張る営業マンでもあった。そして、それらは彼の中で絶妙にリンクし、プレーにも営業にも相乗効果を生んでいる。

 現在28歳。次のワールドカップも十分にやれる。ここからの4年間で、さらに成長し続けてくれるに違いない。

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