33歳のキム・ジヨンは突然、母親や亡くなった友人の声で語りだすという憑依症状を起こすようになる。この小説の大半は、精神科医が彼女の家族関係や成育歴などを記録するという形をとっている。
どの家族にもありがちな出来事がつらつらと書かれているのだが、祖母や母からつながり、当たり前になっている女性差別の現実が鮮明にあぶりだされてくる。
子ども時代、大学進学、就職、結婚、出産とさまざまな場面で、女だからという理由で不当に扱われてきた。その都度、自分の言葉を飲み込んできたキム・ジヨン。その飲み込んできた言葉が、母や亡くなった友人の声として、キム・ジヨンの口から飛び出し、周囲の調和を乱す。
読んでいてドキっとしたのは、出生性比の話だ。キム・ジヨンには姉がいる。母は3人目も女だと知り、中絶手術を受ける。念願の弟が生まれると、家の中は弟が中心になっていく。女児は歓迎されない。1990年代の韓国では、3人目以降の子どもの性比は男児が女児の2倍以上というアンバランスを極めた。
就職も男が有利。男子学生しか推薦しないことに抗議した女子学生に、学科長が言い放った言葉は「女があまり賢いと会社でも持て余すんだよ」。
ひどい言葉だが、他人事ではない。日本でも、東京医科大で女子を不利に扱う入試不正が発覚したのは記憶に新しい。