この小説が、韓国で社会現象となったのもわかる気がする。ここに書かれているのは「私の物語だ」と感じる女性は、韓国だけでなく、日本にも、そしておそらく世界中にいるに違いない。日本でも14万部を突破するベストセラーになっている。
日韓関係は、金大中、盧武鉉、李明博と三代にわたって「未来志向」をうたうのだが、政治的に行き詰まり、国民の支持が薄まってくると、反日に傾くようになった。
それでも、韓国からは年間750万人もの人が日本に旅行に来ていた。口では「反日」と言いながらも、多くの人たちは日本の車に乗り、日本の電化製品を使い、日本を訪ねていたのだ。
しかし、ここへ来て、韓国からの観光客は激減しているという。反日ムードが原因といわれる。この流れはもう止められないのだろうか。
いや、ぼくはあまり悲観していない。「反日」「嫌韓」のムードは波のように揺れ動くものだ。何かをきっかけにして突然、良いムードになることもある。だから、相手の国の映画や小説、文化に親しんで、扉を閉ざさないことが大事なのだ。特に、嫌なムードに傾いているこんな時にこそ。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。
※週刊ポスト2019年11月1日号