家に取り残された人を救助する消防団員。宮城県丸森町(時事通信フォト)

家に取り残された人を救助する消防団員。宮城県丸森町(時事通信フォト)

 そもそも消防団員とは、本業を別に持つ一般市民である。よく見かける活動としては、火災予防運動の一環で行われる火の用心の夜回りや、休日の公園などでときどき実施されている放水訓練などではないだろうか。団員に報酬が少し発生することもあるというが、活動費で消えてしまうことがほとんどだ。あくまで本業は別なので、プロの消防士のようにはいかない。とはいえ、地域へ貢献したいという気持ちを持っており、Mさんもその一人だ。

 ほとんど一睡もせずに迎えた13日早朝。当初テレビではほとんど報じられなかったが、Mさんの住む地域はほとんどが床下冠水し、一部の家は一階部分にまで水が押し寄せ、住人が取り残されていた。危険で近づけないところには、消防隊のボートやヘリが救出に向かうということで、比較的救助の容易い床下冠水エリアに向かう。そこにはMさんの説得を拒んだ住人がいた。

「遅いじゃないか、と開口一番、怒鳴られました。中年の息子さん、高齢の父母が住むお宅です。浸水を免れたお宅に安否確認に行くと、遅くまで避難避難とうるさく言われて眠れなかった、とも言われました」

 Mさんたち消防団員にとって、これほどショックで屈辱的なことはないが、気持ちを押し殺し、黙々と任務をこなす。住民を避難所に送り届けた後、昨夜のうちに避難していた高齢夫婦がMさんの元に駆け寄ってきた。

「あんたを信じて良かったと、手を握られました。もう涙が止まりませんでした。幸いにも地域から死者は出なかったが、それは本当に偶然でした。うるさいと言われても、首に紐をつけてでも避難させるべきだったし、後悔してからでは遅いんです。県内では死者も出たし、全国で多くの人が亡くなっている。こうした事実を、避難されなかった人々に知ってほしい。そして考えてほしいんです」

 10月25日には、千葉から茨城にかけて大雨が降った。当然頭をよぎるのは台風19号の甚大な被害である。Mさんの住む地域にも、大雨警報が発表され、なんとか無事だった緩んだ地盤、堤防がついに崩壊してしまうかもしれない。Mさんが続ける。

「あの時、いくら言っても避難しなかった方のお宅を訪ねると、よく来てくれたありがとうとお礼を言われましたね。今度は私らに迷惑をかけられない、避難する準備はいつでもできていると…。緊急事態に陥った時、お互いに気が立って冷静になれない部分もあったかと感じます。ただ、口酸っぱくして避難を促したことで、わかったもらえたのではないか。胸が熱くなりました」

 筆者は昨年の夏にも、西日本豪雨による特別大雨警報が出たにも関わらず、避難しなかった知人の話を元に記事を書いた。災害を甘く見ていた消防団員が、家の周囲が冠水し取り残され、災害への見方を改めた、と話していたことを思い出す。逃げることは恥でもない、逃げろと言い続けることはおせっかいでもなんでもない。災害大国である我が国で、一人でも多くの人たちの命が守られるよう、マスコミや識者、役人はもちろん、国民一人一人が災害との向き合い方を考え続けなければならない。

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