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共生社会のモデルとして注目の“幼老複合施設”のメリットは?

園児との触れ合いは高齢者の潜在能力を引き出すという(写真提供/江東園)

 高齢者施設と保育園が併設された「幼老複合施設」。老人と幼児が一緒に過ごす光景は、みんなが笑顔でほほえましく、そして目新しい感じもする。

 だが、よく考えれば、祖父母世代と孫世代の触れ合いを目新しく感じるのもおかしな話だ。子どもは子どもだけで、年老いたら高齢者だけで“ケアされるもの”という固定観念に、改めて気づかされる。

 国内でいち早く幼老複合施設を開設し、共生社会のモデルとして注目されている社会福祉法人江東園(東京都江戸川区)を取材した。

 朝いちばん、江東園1階にある江戸川保育園のカーテンを、2階、3階の老人ホームの高齢者たちが開けて歩く。保育士の出勤前から、園児たちを迎える準備をするのだ。

「自主的にやってくれる人たちに保育園がお願いしており、仕事というわけではありません」と言うのは、江東園地域事業部の井上知和さんだ。

「ただ、かわいい園児たちを見ると世話を焼きたくなるようです。着替えやおむつ替え、抱っこなど、いろいろお手伝いしていただいています。ヨチヨチ歩きの幼児を見て、体の動きづらいお年寄りも思わず手を差し伸べる。普段与えられる一方の受け身から、心も体も能動的になる。自然な自立支援です」(井上さん)

 また毎週月曜日の朝も大活躍。週末を家で過ごした園児たちは月曜の登園時、落ち着きなく泣いたりするのだが、高齢者が保育園の門に立ち、「おはよう!」と声をかけながら迎える。重要な役割を担い、皆、生き生きするという。

「複合施設になる前、敷地内の別棟で保育園と老人ホームを併設していました。そこでお年寄りに遭遇した園児が“おじいちゃん、くさい!”と無遠慮に言ったのです。それが複合施設に移行する大きな契機になりました。

 当時すでに核家族化が進み、子どもは、人の老いを知らず、施設の高齢者も他者の目を気にする機会が激減。子どもだけ、高齢者だけを集めてケアすることが、一見合理的でも不自然だと気づいたのです」

 高齢者と過ごすことで、子どもにはどんなメリットがあるのだろう。江戸川保育園主任保育士の渡辺峻さんに聞いた。

「人が老いて弱くなることを、子どもたちはお年寄りから身をもって教わります。毎朝のラジオ体操の後、5~6才の高年齢児クラスの子が、体の不自由な人も多い特養の各居室を訪問しています。

 ある子どもが“おばあちゃん、どうして寝ているの”と尋ね、“腰が痛いんだよ”と答えると、その子が心配そうに腰をさすってあげて、おばあさんは涙を流して喜んでいました。日常の触れ合いの中でこそ、やさしい労りの気持ちが自然にわくのです」

 それでもやはり子ども。“くさい”“よだれが出てる”などと容赦なく言ってしまうことはよくあるという。

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