志ん朝は志ん生の『幾代餅』を継承し、磨き上げた。その『幾代餅』と同工異曲の『紺屋高尾』も一度だけ演ったのは「二朝会」ならではの椿事。音源を聴くと圓生に近い型だがそのままではなく、さすがに聴き応えはあるが、一度限りにしたのは混乱を避ける意味で正解だろう。

 人情噺の長編『ちきり伊勢屋』は柳朝とのリレー企画。先代正蔵の型を持ち前の表現力で磨き上げた見事な「上」で、もしも志ん朝が「下」も手掛けて演り続けてくれたら……と思わずにはいられない名演だ。

 この商品の目玉は『らくだ』が収録されていること。ごく若い頃に志ん朝が『らくだ』を2回ほど演じた記録があり、この「二朝会」での口演は蔵出し。そしてこれ以降、志ん朝は『らくだ』を演じていない。唯一残っている音源の初商品化だ。

 これが、実に素晴らしい。志ん生の『らくだ』を見事に膨らませた、明るく楽しい『らくだ』なのである。屑屋に悲壮感がない。僕はこの、笑いの多い『らくだ』を聴いて「志ん生の血」を感じた。なぜ演り続けなかったのか。不思議だ。

 もちろんレアな演目以外に志ん朝十八番の数々も収録、中でも『お直し』は貴重なネタおろし音源。31歳から36歳に掛けての若々しい高座を堪能できる、志ん朝ファン必携のアイテムだ。

※週刊ポスト2019年11月8・15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン