志ん朝は志ん生の『幾代餅』を継承し、磨き上げた。その『幾代餅』と同工異曲の『紺屋高尾』も一度だけ演ったのは「二朝会」ならではの椿事。音源を聴くと圓生に近い型だがそのままではなく、さすがに聴き応えはあるが、一度限りにしたのは混乱を避ける意味で正解だろう。
人情噺の長編『ちきり伊勢屋』は柳朝とのリレー企画。先代正蔵の型を持ち前の表現力で磨き上げた見事な「上」で、もしも志ん朝が「下」も手掛けて演り続けてくれたら……と思わずにはいられない名演だ。
この商品の目玉は『らくだ』が収録されていること。ごく若い頃に志ん朝が『らくだ』を2回ほど演じた記録があり、この「二朝会」での口演は蔵出し。そしてこれ以降、志ん朝は『らくだ』を演じていない。唯一残っている音源の初商品化だ。
これが、実に素晴らしい。志ん生の『らくだ』を見事に膨らませた、明るく楽しい『らくだ』なのである。屑屋に悲壮感がない。僕はこの、笑いの多い『らくだ』を聴いて「志ん生の血」を感じた。なぜ演り続けなかったのか。不思議だ。
もちろんレアな演目以外に志ん朝十八番の数々も収録、中でも『お直し』は貴重なネタおろし音源。31歳から36歳に掛けての若々しい高座を堪能できる、志ん朝ファン必携のアイテムだ。
※週刊ポスト2019年11月8・15日号