ライフ

おでんの名店 出汁とおでんダネ、門外不出の仕込み現場

瓢箪の切り抜きが粋な大根(385円)

 文京区湯島にある人気おでん店「こなから」は、出汁はもちろん、おでんダネもすべて一から手作り。その仕込みは営業開始の18時から10時間前、朝8時に始まる。

 午前8時。神経を研ぎ澄まし、水から煮出した日高昆布を沸騰前に取り出す最適なタイミングも見逃さない。出汁は午前と午後の計2回仕込む。

 澄んだ滋味深い出汁を生み出す4つの素材で出汁をとる。鰹節、鯖節、干し椎茸の石突き、日高昆布。椎茸の笠は出汁の色が黒くなるため使わないなど、美意識も宿る

 関西風がベースだが、椎茸で出汁をとる際に関西や関東では一般的に使わない石突きだけの使用にこだわり、塩のみで味を整える。「いわば“こなから風”です」(店主・中田利雄さん)

出汁を取る店主の中田さん

鰹節、鯖節、干し椎茸の石突き、日高昆布で出汁を取る

 出汁の仕込みが始まる少しあと、午前10時頃から、職人総出でおでんダネの仕込みが始まる。三つ葉やタケノコ、豆腐、ウズラの卵、胡麻などが入る「京がんも」はこの日、一気に100個を仕込んだ。

三つ葉やタケノコの入った京がんもを仕込むのは職人の仕事

 12時半。年季の入った鍋で「帆立入りさつま揚げ」を絶妙な加減で揚げていく。職人・春日健司さんは、店に10年通っていた元常連。味に惚れ込み、作り手になった。

帆立入りさつま揚げを揚げる

 数量限定の「ごぼう天」の仕込みが午後1時頃からスタート。ゴボウの太さに合わせてすり身を薄く延ばしていく作業は、隙間に空気が入らないように一層の時間と手間を要する

 午後1時すぎ。蒸し上げたホクホクの北海道産の男爵いもは、ネーミングも楽しい「じゃが丸さん」に使用。「さん」と付くメニューの大半は中田さんが考案した。

 タネが並ぶ銅鍋に出汁が注がれるのは午後4時半。特注品の瓢箪型の鍋は2代目。穴が空くまで18年間使い続けた初代の鍋は現在、新丸ビル店の入り口に飾られている。

 支店の新丸ビル店や銀座店で使うタネも本店で手造りし、この調理場から配達される。「出汁を最初に練り込んであるタネもあります」(店主の娘で代表取締役の須田江利香さん)

 こうして出汁とおでんダネが仕込まれ、一口食べるたびに出汁の旨味が染み出し、舌も身も心もじんわり温まる「こなから」のおでんが完成する。

ゴボウの太さに合わせてすり身を薄く延ばしていく

●撮影/岩本 朗、取材・文/上田千春

※週刊ポスト2019年11月22日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

都内の人気カフェで目撃された田中将大&里田まい夫妻(時事通信フォト/HPより))
《ファーム暮らしの夫と妻・里田まい》巨人・田中将大が人気カフェデートで見せた束の間の微笑…日米通算200勝を目前に「1軍から声が掛からない事情」
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
新横綱・大の里(時事通信フォト)
《横綱昇進》祖父が語る“怪物”大の里の子ども時代「生まれたときから大きく、朝ご飯は2回」「負けず嫌いじゃなかった」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ヤクザが路上で客引きをしていた男性を脅すのにトクリュウを呼んで逮捕された(時事通信フォト)
《ヤクザとトクリュウの上下関係が不明に》大阪ミナミでトクリュウを集めて客引き男性を脅して暴力団幹部が逮捕 この事件で”用心棒”はどっちだったのか 
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
新横綱・大の里(時事通信フォト))
《地元秘話》横綱昇進の“怪物”大の里は唯一無二の愛されキャラ「トイレにひとりで行けないくらい怖がり」「友達も多くてニコニコしてかわいい子だったわ」
NEWSポストセブン
ミスタープロ野球として、日本中から愛された長嶋茂雄さんが6月3日、89才で亡くなった
長島三奈さん、自身の誕生日に父・長嶋茂雄さんが死去 どんな思いで偉大すぎる父を長年サポートし続けてきたのか
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
金髪美女インフルエンサー(26)が “性的暴力を助長する”と批判殺到の「ふれあい動物園」企画直前にアカウント停止《1000人以上の男性と関係を持つ企画で話題に》
NEWSポストセブン
逮捕された波多野佑哉容疑者(共同通信)。現場になったラブホテル
《名古屋・美人局殺人》「事件現場の“女子大エリア”は治安が悪い」金髪ロングヘアの容疑者女性(19)が被害男性(32)に密着し…事件30分前に見せていた“親密そうな様子”
NEWSポストセブン
東京・昭島市周辺地域の下水処理を行っている多摩川上流水再生センター
《ウンコは資源》排泄大国ニッポンが抱える“黄金の資源”を活用できてない問題「江戸時代の取引金額は10億円前後」「北朝鮮では売買・窃盗の対象にも」
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン