健大高崎のエースは左腕・下(しも)慎之介。140キロを超えるような直球はなくても、スライダーを中心とした変化球が打者の手元付近で曲がり、右打者も苦にしない。青柳監督は、エースに託す試合は託し、その次の試合は複数の投手を繋いで、できれば下を起用せずに勝利しようという、二種の投手起用策を用いて神宮制覇を目指していた。
初戦となった11月15日の倉敷商業(岡山)戦は、下が延長10回まで145球完投した。翌々日の2回戦・明豊(大分)戦では3投手の継投で9回までしのぎ、同点で迎えた延長10回表に下をマウンドに上げ、裏のサヨナラ勝利につなげた。さらに翌18日の準決勝・白樺学園(北海道)戦では、再び下が155球の熱投で決勝進出を決めた。
決勝までに下が投じた球数は、1イニング11球の登板だった2回戦を含め、311球。青柳監督は、決勝のマウンドに下を送り出さなかった。2回戦や決勝で下を先発させていたなら、この1週間で投じた球数は「500」に達していたはずだ。
もちろん、下を連投させていたとしても、現行のルールでは問題ないものの、指揮官自らそうした起用を避けたのは、下の疲労を考慮したからだ。
「準決勝で155球を投げている下を、中1日で先発に起用するのは、さすがに厳しい。そういう判断でした。とはいえ、下は1試合を任せられる体力もあるし、自信もある。もうひとり、そういうピッチャーが出てくればいいなと思いますが、現状、下が投げない日は、継投でしのぐのが限界です」
勝利した中京大中京も、2回戦で対決した高知・明徳義塾の馬淵史郎監督をして「ストレートは横浜高校時代の松坂(大輔)以上」と言わしめたMAX148キロ右腕の高橋宏斗を擁しながら、準決勝の天理(奈良)戦、そして決勝では140キロオーバーの小兵左腕・松島元希を先発に起用した。
中京大中京の高橋源一郎監督もまた、「2人目のエース」の必要性を決勝後に説いた。
「高橋が(2020年のドラフト候補と)注目されて、県大会、東海大会と、それなりに柱としてチームを引っ張ってきてくれた。しかし、やはり1枚だけでは、この先のことを考えると勝つことはできない。新チームの発足以来、私は『2枚看板』ということを公言してきました。それは松島に自覚を持たせる意味もあった。松島の成長が、神宮大会のポイントでした。(天理戦で5回6失点、健大高崎戦で5回3失点の内容は)我慢強く投げてくれて、良い経験になったと思います」