「やはり人間ですから、スパッと全ての関係を断つことは難しいんです。こちらから断とうとすると、裏切り者と言われ、店の非常ベルを鳴らされたり、注文していない大量の肥料が着払いで届けられたり…。不衛生だといわれのないクレームを保健所に入れられたこともあります。それでも、ヤクザだった自分に責任があると耐え忍びました」(中島さん)
あれから十数年も経つが、いまだにあるのは、やはりこうした嫌がらせである。
「私が経営者として自立したことを知ったかつての仲間から、脅迫を受けていました。暴力団である過去をバラされなければ金をよこせというやつです。私が応じないと、ガラスを割ったりゴミを撒かれるなど店への直接的な嫌がらせはされないものの、ネット上に中島は現役(組員)とかヤクザの店とか、嘘ばかり書き込まれる。店の大家にも“私が反社だ”といった怪文書が月に十数通も届き、最後は出て行ってくれと。こちらとしては(大家さんに)迷惑をかけて申し訳ないというしかなく……」
今話題になっている政府主催の「桜を見る会」でも似たようなことが起きた。昨年と今年、会に参加した関西某県の町議・X氏について、過去に暴力団であったということが一部週刊誌などで報じられた。すると、新聞やテレビも一斉に「元暴力団が参加している」と取り上げた。X氏を昔からよく知るという町民が訴える。
「Xちゃんのことを、過去も含めて知らん町民はおらんのです。元ヤクザっていうのも誰でも知っとる。それでもXちゃんが町議になれたんは、人徳があってこそ。前回、前々回の選挙もトップ当選やし、町民のために一生懸命やっとる。反省やら禊も済んで頑張っとるのに、なんでこんな言われ方されなあかんのか」(町民)
X氏に取材をすべく関係者に電話をしたが、応じられないと次のように説明する。
「県内では、マスコミも含めてXの過去を知らない人はいません。なのに、全国的に取り上げられるとこんなになってしまうんですね、政治的な意図もあるのでしょうが恐ろしいです。彼は昔ながらの渡世人でした。足を洗って頑張っているが、今(こうした雰囲気の中で)何を説明してもわかってもらえないのではないか。本人も本人の家族も本当に参っている。勘弁してもらえんやろか」(X氏の関係者)
元暴力団員など、かつて反社会勢力に所属した多くの人々たちを取材したが、彼らが一様に感じているのは生きづらさである。もちろん、過去は消せないしそれは自身の責任に他ならない。ただ、これだけ反社会勢力に対する厳しい司法、市民感覚が醸成された中で、反社を辞めた人々に対するあまりに冷たすぎる反応は、一体なんなのだろうか。
過去の自身を否定し、やっとの事で反社勢力から抜け出せても、いつまでもヤクザだ反社だと後ろ指を指され、市民から除け者にされると、結局元サヤに戻るしかない。司法当局が“ヤメ暴力団”の社会復帰を積極的にすすめてはいるものの、この感覚のギャップが簡単に埋まらないとすれば、社会から“反社”という不安要素が取り除かれる日は、かなり遠そうだ。