アフガン東部をパトロールする米軍部隊。現在は駐留米軍の規模縮小により、タリバンやISらが勢力を増し治安は悪化するばかりだ(2008年、横田徹撮影)

 特にアフガン東部、パキスタンと国境を接するパシュトゥン人が多く住むエリア(中村医師の活動拠点ジャララバードを含む)は、伝統に根差した生活文化を重んじる傾向が強いことで知られる。“客人”と認められれば厚く歓待されるが、しきたりを無視して土足でズカズカ入り込むような“よそ者”は受け入れられない土地柄なのだ。

 そうした文化背景を持つ土地で、中村医師は彼らのことを理解し、現地の人々の歩調に合わせるようにして農業指導に取り組んでいた。私の印象では、彼らの流儀と日本人の文化や価値観が互いに通じ合える部分を見つけては、一緒にプロジェクトを作ってきたように思える。

 その結果、中村医師が指揮して現地スタッフらと掘った井戸は1600本、農業向けの灌漑用水路は13本に上る。そもそも医師である中村氏は、農業や土木の専門家ではない。それでも自ら先頭に立ち、砂漠だった土地を緑の大地に変え、戦乱や旱魃、貧困に苦しんでいたアフガンの人びとに、実りをもたらした──。

 30年近く、アフガン復興のために人道支援活動を続けてきた中村医師が、なぜ今、殺されなければならなかったのか。

◆ターゲットに変わった遠因

 私自身、アフガニスタンには2001年「同時多発テロ」発生以前から紛争取材などで何度も現地入りしている。同じく戦乱が続くイラクやシリアなどと比べても、アフガン滞在中は“治安に対する意識を一段と高めなければ生還できない”危険な地域であると認識している。

 前述したように、パシュトゥン人が多く住むエリアは “よそ者”に対する警戒心が特に強いことから、同じアフガン人のタジク系やハザラ系でさえ、そこに足を踏み入れるのを躊躇するほどだ。外国人ともなれば、余計に目立ってしまう。

 私がパシュトゥン人地域で長期取材をする際には、決して目立たないようにホテルには泊まらず信頼するコーディネーターの家に潜み、髭を生やし現地で調達した衣服に身を包んで、車で移動の際も身を晒さないようにして外国人だとわからないような配慮が必要だった。

 もちろん、中村医師も私以上の注意をしながら活動していたはずだ。ここ最近の治安の悪化についてご自身も語られていたという。

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