与那国島だけでない。波照間島や西表島、多良間島など、県内8つの離島に黒糖工場があり、サトウキビ栽培とともに島の経済を支えている。県全体を見ても、全農家の7割がサトウキビを栽培し、作付面積も全体の6割に達する。
しかしながら、いま沖縄県産の黒糖は、大きな課題に直面している。4年連続で県内の黒糖生産量が9000トンを超える豊作が続く一方で、タイや中国などの安い輸入物の黒糖にシェアを奪われているのだ。交通の不便な離島でのサトウキビ栽培や黒糖の加工は、どうしても輸送コストがかかり、割高になりがちだ。
その結果、膨大な在庫をJAおきなわなどが抱え込む事態が起きている。その量は2019年9月末で2500トンにも上った。昨シーズンの沖縄県内の黒糖の生産量は9131トンだから、その4分の1以上の売り先を確保できず在庫となってしまっているのだ。
国内農家の保護のため、安い輸入原料の砂糖と、国産のサトウキビや甜菜を用いた砂糖との価格差を補助金などで埋める「糖価調整制度」がある。しかし、補助金を投じて割高のサトウキビを生産することには、少なからず批判があるのも事実だ。
ただし、考えなければならないのは、沖縄の離島では、サトウキビや黒糖の生産が島の基幹産業となっていることだ。JAおきなわの普天間朝重理事長はこう強調する。
「経済合理性だけを考えれば、無駄だという批判も出てくるのかもしれません。しかし、与那国島のような他の産業が乏しい離島では、サトウキビ栽培や製糖産業がなくなれば、無人島化しかねません。そんな事態になることを、許してしまってよいのでしょうか。 国境の離島をどうやって守るのか、国民全体で考えてほしいと思います」
サトウキビの栽培は、そのまま国の安全保障の問題でもあるということを、いま一度考えてみるべきだろう。スーパーで砂糖を購入する時、その生産地を気にかける。そんなことがはじめの一歩かもしれない。
◆取材・文/竹中明洋(ジャーナリスト)
◆取材協力/全国農業協同組合中央会
◆写真/倉田美穂理
※女性セブン2020年1月1日号