さらに夏場になれば、「夏植え」が待っている。30cmほどにカットしたサトウキビの茎を植え付ける作業だ。植え付けた茎の節から芽が出て、1年半ほどで収穫できるようになる。
植え付けた茎の周囲の土を盛る培土という作業も欠かせない。そうすることで、根がしっかり張るようになるという。その合間にも次から次へと伸びてくる雑草の除草作業に追われる。
与那国島は4月には最高気温が25℃を超えて夏日となる。南国の太陽の下での作業では汗が滝のように流れるが、手間をかけるかどうかで、サトウキビの収量が大きく変わってくるため、手を抜くわけにはいかない。
「島内では兼業でサトウキビを栽培する農家もいますが、専業農家としてきっちり利益が出るようにしたいと思い、規模拡大と収量を増やすことにこだわってやっています」
松原さんはそう話すだけあって、この5年間に耕作放棄地となっていた畑を借り受けるなどして急速に経営規模を拡大してきた。昨シーズンの収穫は870トン近くに上り、沖縄で最も生産量が多いサトウキビ農家として表彰を受けた。今シーズンは20ヘクタールの畑で1000トンの収穫を目指すという。
サトウキビは、ハーベスターと呼ばれる機械を使って収穫することも多いが、松原さんは鎌を使った手作業で刈り取りを行う。そのためには、収穫シーズンに作業を手伝ってくれる人手の確保が欠かせない。しかし、離島ではそれも容易なことではなく、規模拡大に見合った作業の進め方を試行錯誤している。
「農家として経営をうまく成り立たせることができるのか、まだ不安はありますが、やるしかありません。ただ、作業に没頭しながらサトウキビの成長を見守ることは楽しく、仕事と趣味が一緒という思いでやっています」(松原さん)
◆産業がなくなれば「無人島化しかねない」
サトウキビの収穫は、12月に始まる。刈り取られたサトウキビは、JAおきなわが島内で運営する製糖工場に運び込まれ、煮詰めて黒糖に加工する。シーズン中ともなれば、朝から晩までサトウキビが次々とトラックで運びこまれ、工場から黒糖の甘い香りが漂うそうだ。一年を通して島が最も活気づく時期でもある。
オフシーズンは10人の従業員が工場の保守管理にあたっているが、シーズン中は50人の臨時従業員を雇い入れるという。他にはトラックの運転手やハーベスターのオペレーターと、産業が乏しい離島では、サトウキビや黒糖の生産が貴重な雇用機会や住民の所得を生んでいるのだ。