発端は〈KSJマンション〉というヤミ民泊の一室がシャブの仕分けに使われているという密告だった。早速鑑識係の〈藪〉とカメラを設置し、監視を始めた鮫島は、その上階で宿泊客らしき男が射殺される現場を目撃してしまうのだ。

 やがて被害者は予約名簿から〈華恵新〉と判明するが、偽名の可能性も高い。そもそも鮫島がその施設の運営母体や〈権現〉なる経営者に辿り着いたのも、KSJマンションが元は〈呉竹ガラス店〉の持ち物で、博打好きな店主から土地を奪う目的でイカサマを仕掛けた連中がいると、地元の不動産屋で小耳に挟んだからだ。

 この時、呉竹をハメた黒幕が権現で、そのさらに裏にいるのが、暴排条例以降、彼らグレーな稼ぎ手を傘下に抱える〈田島組〉だった。一課でも組対でもないのに薬物+ヤミ民泊を突破口に犯人を追い、権現や田島組幹部〈浜川〉の口を強引に割らせる一匹狼を、〈ルールを曲げない〉が身上の阿坂が許すはずもなく、機動隊出身の新人〈矢崎〉を着任早々、彼の相棒に指名する。

 鮫島は矢崎の将来に傷がつくのを恐れ、かつて桃井や自分に殺し屋を差し向けた〈陸永昌〉との因縁も含めて阿坂に事情を話し、コンビ解消を願い出た。だが、短大卒のノンキャリアから異例の出世を遂げた彼女は原則を曲げず、単独行動の禁止と報告の徹底を命じるのだ。

◆現実にあってもおかしくない話

「阿坂の造形には最も力を入れたかもしれませんね。妙に女っぽい上司も違うし、何か男にはない強さや自分なりの筋を持った、鮫島が反発と尊敬の念を両方抱く人物でなきゃいけないので。

 特に原理原則にこだわる阿坂が、警察ほど厭らしい嫉妬の世界はない、そこで私は生き延びてきたんだと啖呵を切るシーン、あれこそ書きたかったんです。もちろん鮫島にすれば一筋縄でいかない相手だけど、彼女は彼女なりのやり方で組織と戦ってきたわけです。大切なのは鮫島と阿坂では通したい筋が違うだけで、どっちが悪玉でも善玉でもないということなんです」

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