◆10~30円の値上げで客離れ
いま、小売り、外食だけでなく、宅急便クロネコヤマトのヤマトホールディングスといった運輸業界などあらゆる産業で人手不足が問題になっているが、日高屋も深刻な人手不足から店舗運営の転換を余儀なくされた。
2018年4月下旬、ハイディ日高は人手不足の解消に向けて2つの手を打った。それが従業員の待遇改善と一部商品の値上げだ。
まず、パート従業員とアルバイトの時給を一律20円引き上げ、正社員には1万円のベースアップを実施した。
値上げについては、麺類や定食類を中心に一部メニューを10~30円値上げした。「野菜たっぷりタンメン」は20円アップの520円(税込み、以下同)、「チャーハン」は20円高くなり450円、「ギョーザ(6個)」は10円上げて230円にした。
だが、10~30円の値上げということなかれ、日高屋の客層は値上げに敏感だった。外食チェーンは値上げが客離れを招くというセオリー通り、値上げに踏み切った2018年4月、それまでプラスを続けてきた既存店の客数が前年実績を割り込んだのが何よりの証拠である。
これ以降、客数が前年を上回る月はない。2018年11月からは既存店売り上げもマイナス成長が続く。影響がこれほど長期に及ぶとは想定していなかったのではないか。
◆「ちょい飲み」客が減った働き方改革
さらに、残業時間の上限などを規制する働き方関連法案が4月に施行された影響も小さくなかった。早い時間に帰宅するサラリーマンが増え、日高屋が強みとしてきたサラリーマンによる仕事帰りの「ちょい飲み」が逆風に見舞われた。残業代が減って収入が減少すれば、サラリーマンは飲み代を削る。
働き方改革は、日高屋自身にもはね返ってきた。残業規制を受けて営業時間を短縮したのである。コンビニエンスストアのような24時間営業の店や深夜2時まで営業する店が多かったが、一部の店舗の閉店時刻を午後11時30分に前倒しせざるを得なくなった。当然、店が開いていなければ売り上げはゼロになる。
ちょい飲み市場に、ライバルチェーンも続々と参入してきたため、ここ1年の間でアルコール飲料の極端な値下げ競争が起きた。アルコール類やつまみの利幅はラーメンより大きいが、それが縮小して赤字スレスレの店も出てきたのである。
日高屋は何とか顧客を呼び戻すため、3月下旬から生ビールを330円(同)から290円へ値下げした。40円の大幅値下げである。10月の消費増税後も値段を変えず、実質的な再値下げに踏み切った。しかし、それでも客数は、前年割れの状況から抜け出せずにいる。
コスト削減策も裏目に出かねない状況になっている。2018年12月、東京・大田区にオープンした店舗で券売機を導入したが、ハイディ日高では、券売機は永年のタブーであった。
券売機は人手不足を補うため、多くの外食チェーンで見掛けるようになったが、ちょい飲みのサラリーマン客は「生ビールおかわり」など口頭で注文する。わざわざ券売機に足を運んで追加注文しない。券売機を導入した店では、ビールのおかわりが減ったというから恐ろしい。
だから、日高屋はアルコール需要が少ないJRの駅施設内の店を除いて券売機を導入してこなかった。しかし、人手不足が深刻化して、とうとう券売機の投入に踏み切った。今後、売り上げの17%を占めるビールなどアルコール飲料にどう影響するかが注目される。