50作目のセットの中に渥美さんはいませんでした。でも、いるんです。「いないから、いる」って、こういう感じなんだなって。出演者が寅さんや渥美さんのことを話している雰囲気も凄く良かったです。ちなみに新作では、寅さんの血を吉岡秀隆君演じる満男が引き継いでいます。私が演じる朱美も中年になり、父親のタコ社長に似てきて。あの血圧高そうな感じが(笑い)。
渥美さんが亡くなり、「寅さん」が途切れてから、茶の間、畳、卓袱台、縁側……日本中でそういうものが壊され、どんどんプラスチックの世界になっちゃった。それとともにザラザラした手触りの人、一癖も二癖もある人がどんどんいなくなり、ヤスリで削られたような何の特徴もないツルツルの人が増えちゃった。でも、「寅さん」の世界にはあるんです、昭和の世界が。ぜひ、50作目の「寅さん」を観て、失われたものの良さを見直していただけると嬉しいです。
●みほ・じゅん/1960年生まれ。第33~第39作にタコ社長の娘・朱美役で出演。第36作『男はつらいよ 柴又より愛をこめて』と『キネマの天地』(山田洋次監督)により、1987年の日本アカデミー賞助演女優賞受賞。『5時に夢中!』(TOKYO MX)、『ごごナマ』(NHK総合)にレギュラー出演中。
※週刊ポスト2020年1月3・10日号