その翌年にポスターで『東京家族』(2013)をお手伝いし、『家族はつらいよ』(2016~2018)シリーズでもご一緒しました。「さくらや博、満男にリリーも現役だし、現在の彼らを出演させたらいいですよ。ゲストに『家族はつらいよ』のキャストも出せば面白い。寅さんは幽霊にしたらいいんじゃないですか」というアイディアも山田さんに出したんですけどね。山田さんは聞いているだけで前向きの反応ではありませんでした。
◆「友情を踏みにじられた」
〈50作目が製作発表された2018年10月31日。横尾氏はその会見の存在も知らず、また、アイディアやコンセプトに関して監督からのコメントはなかったという〉
いよいよ新作が始動した後は、山田さんの口から「寅さんの〈と〉の字」も出なくなりました。いくら鈍い僕でも“なんか変だなあ”ってくらいは感じてましたけどね。その時に僕は思いましたね。山田洋次映画に横尾忠則の名前が混じっては困ると彼が本能的にガードしてるんだなって。それでも、どこかで山田さんから「あのアイディア、とてもいけると思いましたから使わせてください」と挨拶があるはず、と期待してました。だって彼は映画人で、僕も美術家だもの。アーティスト同士、尊敬やマナーがあって当然でしょう?
水面下で新作が進んでいると聞こえてきた折、親しい松竹のプロデューサーに、アイディアとコンセプトを山田さんへ教えた話をしたんですよ。プロデューサーから話が行けばいいかなと思ったんでね。でも、山田監督に忖度してるんでしょうか、何も伝えてくれなかった様子でした。
製作スタートした2018年から、ずっと蚊帳の外なんです。音楽がまだ入ってない「ゼロ号」という試写を観せられたときは、僕は憤然と席を立って態度で抗議しました。作品は僕が彼に提案したように、現役の浅丘さんたちが出ているし、『家族はつらいよ』の橋爪功さんや小林稔侍さんも登場しています。CGで寅さんの幻影(幽霊)を表現するのも僕の提案通りでした。屈辱感を味わいましたね。