その後、松竹からプロデューサー3人が来ましたけど、彼らからは何にも言わないんです。そのうちのひとりは以前会ったとき、「黒澤明と山田洋次は日本を代表する監督だ」と言うんで、「冗談じゃない」と思いました。黒澤さんとは僕も親交があったけど、山田さんとは格が違います。そんなことを平然と言うプロデューサーがいるとは、山田監督は松竹でどんなエラい立場なんでしょうか。

 僕の名前が初めて公表されたのは、公開直前の12月19日に行われた完成披露試写会での記者質問からですよ。それは前の週に僕が抗議の手紙を山田さんへ送った後なんだからね。叱られたからお義理程度に言うって、ズルいですよ。子供じゃないんだから(苦笑)。

 芸術作品の根本はアイディアとコンセプトに尽きます。それが理解できない山田さんは芸術家ではありません。そんな彼と出逢ってしまった僕の今は、まさに「ヨコオはつらいよ」という感じかな。

 * * *
 横尾氏の憤りに対してどう返答するのか。山田監督へコメントを求めたところ、多忙を理由に松竹映画宣伝部が回答した。

「オールラッシュ(ゼロ号試写)に特別に来ていただいたのも、進行状況の報告のつもりだった。もし横尾さんがご不満だとすれば、監督は本当に申し訳ないと思っているが、一方で聞いていただければ何でもお話しできたと戸惑っています。

 新作の発想が横尾さんから出ていることはもちろんですが、横尾さんがイメージされたような実験的な映画ではなくなってしまったので、横尾さんのお名前を出すのは失礼だと監督は思っていた。でもこれからは喜んで名前を出していくつもりです」

 この回答を横尾氏に伝えると、「進行状況の報告などまったく受けていない。人間不信に陥ってしまいますよ」と憤った。

 世界を代表する美術家の真の願いは、国民的映画監督に伝わったのだろうか。

◆取材・構成/岸川真

※週刊ポスト2020年1月17・24日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン
2025年10月末、秋田県内のJR線路で寝ていた子グマ。この後、轢かれてペシャンコになってしまった(住民撮影)
《線路で子グマがスヤスヤ…数時間後にペシャンコに》県民が語る熊対策で自衛隊派遣の秋田の“実情”「『命がけでとったクリ』を売る女性も」
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
文化勲章受章者を招く茶会が皇居宮殿で開催 天皇皇后両陛下は王貞治氏と野球の話題で交流、愛子さまと佳子さまは野沢雅子氏に興味津々 
女性セブン
各地でクマの被害が相次いでいる(右は2023年に秋田県でクマに襲われた男性)
「夫は体の原型がわからなくなるまで食い荒らされていた」空腹のヒグマが喰った夫、赤ん坊、雇い人…「異常に膨らんだ熊の胃から発見された内容物」
NEWSポストセブン
雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
【天皇陛下とトランプ大統領の会見の裏で…】一部の記者が大統領専用車『ビースト』と自撮り、アメリカ側激怒であわや外交問題 宮内庁と外務省の連携ミスを指摘する声も 
女性セブン
相次ぐクマ被害のために、映画ロケが中止に…(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
《BE:FIRST脱退の三山凌輝》出演予定のクマ被害テーマ「ネトフリ」作品、“現状”を鑑みて撮影延期か…復帰作が大ピンチに
NEWSポストセブン
名古屋事件
【名古屋主婦殺害】長らく“未解決”として扱われてきた事件の大きな転機となった「丸刈り刑事」の登場 針を通すような緻密な捜査でたどり着いた「ソフトテニス部の名簿」 
女性セブン
今年の6月に不倫が報じられた錦織圭(AFP時事)
《世界ランキング急落》プロテニス・錦織圭、“下部大会”からの再出発する背景に不倫騒と選手生命の危機
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
《空腹でもないのに、ただただ人を襲い続けた》“モンスターベア”は捕獲して山へ帰してもまた戻ってくる…止めどない「熊害」の恐怖「顔面の半分を潰され、片目がボロり」
NEWSポストセブン
カニエの元妻で実業家のキム・カーダシアン(EPA=時事)
《金ピカパンツで空港に到着》カニエ・ウエストの妻が「ファッションを超える」アパレルブランド設立、現地報道は「元妻の“攻めすぎ下着”に勝負を挑む可能性」を示唆
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン