仮に、武蔵小杉の駅周辺エリアでもう一度内水氾濫による浸水が生じた場合、あのエリア自体の不動産価格には、2019年とは比べものにならないくらい下落圧力がかかる。武蔵小杉自体が、人々の“脳内ハザードマップ”で「危険エリア」に指定されてしまうだろう。
もっとも、内水氾濫の原因追及や、その対策には関係各所が最大限の努力を払って再発防止に努めるだろうから、そういったことは起こりにくいとは考えたいが、もし再びタワマンが台風被害に遭ったら、その後はかなり悲惨なことになるのは確実だ。
そもそも、「タワマンは災害に強い」と考えられていたのが、意外な弱さが露呈してしまったのが、あの台風19号による武蔵小杉タワマンの被災だった。
私は著書『限界のタワーマンション(集英社新書)』の中でもはっきりと指摘しているが、タワマンは災害に弱い。電力供給が途絶えると、そこには人が一昼夜を過ごすことも困難になるのがタワマンなのだ。電力が途絶える状況が、地震による停電だけでなく水害によっても発生することが分かったことが、台風19号の大きな教訓だ。
そうでなくても、タワマンという住形態には様々な問題を含んでいる。私はタワマンという集合住宅は日本人にとってまだまだ完成度が低い住形態だと考えている。今のままでは50年以上存続させることすら難しい。昨年、武蔵小杉の水害で被災された方にはたいへん気の毒だが、タワマン自体に多くの関心が集まり、その脆弱性を社会に広く知らしめたことには意義があったと思う。